第7話 DAWN 7 変

 ―みのりヶ丘高校、美鈴が在籍する教室 昼―


 美鈴は、窓際の席の一番後ろに座っていた。お昼時は、各々グループを作り、机の上に、弁当、お茶そしてお菓子など広げて、楽しんでいた。しかし、美鈴は一人でお弁当を広げて、一人でおかずをつついていた。


 その姿を鷺宮 美里が、目にした。彼女は、何かと美鈴に突っかかる人物で、いわゆる陽キャである。髪の毛は、明るく染め上げて、スカートは短めである。容姿は、派手目の子で、噂によると、渋谷界隈でよく遊んでいるらしい。そんな彼女だが、頭はこの学校では良い方で、先生に対する印象は良い。優等生ではないが、先生からは気に入られている。


 彼女は、ずかずかと美鈴に近づいてくる。美鈴は、視界に入ってくる美里を、無視をしようとしていたが、何をされるかわからない恐怖心でいっぱいだった。


「ねえ!」


 と美鈴の席の前がたまたま空いていたため、美里はドカッと音を立てて、美鈴は、それにびくっとした。


「一人で寂しくないの?キモ美。」


 美鈴は、うわっ……始まった……。と心の中で呟いた。


 いじめには種類がある。公開処刑型、拷問型、陰湿型そして、イジリ型。どれも辛いが、精神的にやられる陰湿とイジリは、長期的に心を蝕んでいくような苦しみであった。彼女は、陰湿型とイジリ型の両方に遭っていた。


 そんな彼女を皆は見て見ぬふりをする。庇ったりすると自身が被害に遭うからではない。教室というのは、見えない秩序というのが存在するため、周囲はその秩序に従おうとするだけで、正直、その子がどうなろうと親友でなければ、知ったことではないのだ。

 そもそも、庇ったところで、何のメリットもなければ、降りかかる火の粉を払ってまで、助けようとはしないのがここの生徒達である。

美鈴と美里の空間は、まるで周囲とっては空気そのもので、何もないに等しい。

美鈴は、少し無視をするも、執拗に話掛け続け、やがては美里は美鈴の机の上を物色し始めた。そこには、馬の模様が彫られた箸があった。


「え~何~これ~。キモ美、馬が好きなの~?もしかして、巨根好き?」

美里が、下の話を切り出したのをきっかけに、美里の友人たちが、美鈴を囲む。

「マジ?キモ美が?ありえないでしょ~。」

「夜とか、想像して1Pしてるの?マジで、キモ~。」


 美鈴は、そういう話を人前でしたり、されたりするのがとても苦手だ。美鈴も子供ではない。興味がないといったら違う。しかし、興味があるのと、下品に話をするのは違う。美里率いるこのグループは、そういう話で盛り上がる低俗な人達なのだ。

 ……やだな……。こんな子達と一緒にいるなんて……。


 美鈴は、下腹部に痛みが走った。


 ……朝は、まだだったけど、多分アレの日かな……。


「ちょっと、トイレいかしてくれるかな……?」

美鈴が、下腹部の痛みを我慢して、トイレに行こうとする。しかし、美里の友人が

「行かせなーい。」

と前をふさぐ。そして、美里は、馬の橋のケースを開けようと、


キィーン……と音を立てて、引いた。


美鈴は、ちょっと……やめっ……と言いかけた、その時であった。


 一瞬にして目の前が真っ暗になり、声も音も何もかもが聞こえなくなった。


ドクン……ドクン……


 暫く、美鈴は、立ったまま、下を俯き、腕をだらんとして呆然としている。美里の友人が、声を掛けた。

「キモ美~?どうしたの?もしかして、漏らした?キャハハ!」

と肩に手をかけようとした瞬間、美鈴は、その手を脱兎のごとく反応しガシっと掴んだ。


「んだ?てめぇは?」

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