第6話 DAWN 6

 ―桜井 宅―


 美鈴は、洗顔を済ませ、再び、二階の彼女の部屋に戻り、身支度をする。しかし、彼女は、浮かない顔をしていた。女子高生生活と言えば、勉強は勿論、恋愛、バイト、遊びといった、色々なことを経験する時期である。この時期に、女子高生たちは多くを学び、青春を謳歌するのだ。


 しかし、美鈴は、そんな華の生活とは逆の生活を送っていた。


 そう、いじめられているのだ。現代のいじめは、とても陰湿である。先生の目の届かないところでのSNS上でのいじめ、執拗ないじりといった、精神的に徐々に蝕んでいくようないじめである。


―行きたくないな……。何で、あんな学校選んでしまったのだろう……。


美鈴は、親に対して反抗していた時期があった。美鈴が何か決断したり、行動したりする度に、親が横やりを入れてきたのだ。その時の口癖が、


「あなたの為を想って言っているの!何でわかんないの?」


である。美鈴とっては、逆効果だ。―何で、自分で判断してはいけないの?―とずっと感じ続けてきた。美鈴にとって親が邪魔するばかり存在であった。

 過保護ともいえる親への反抗、そして次第に難しくなる勉強内容、その両方が重なって、意欲がけずられていき、部屋に閉じこもってゲームに現実逃避するようになった。

 そんな中、親が勧める学校ではない学校を選び、偏差値五十二とはいえ、ある程度勉強しないと入学できない学校に進学することになった。


 しかし、その選択が間違った。それは、自分に合わない学校だったのだ。反抗するのと、客観的に判断し、自分に合う学校に進学するのは違うのだが、そこがまだ子供だった。その境界線を判断できずに、親に反対する勢いで決めた結果であった。


―……でも、自分で決めた学校だし、行くしかないか……。―


 進学先を間違ってしまった。この受け入れがたい事実を、高校一年生で経験した。他の子は、自分に合った学校に進学し、充実した日々を送っている。ある子は、彼氏ができたということも聞いた。

 美鈴に、彼氏はしない。ただそれだけだが、それが一番大きい。何せ、家族とも友人とも違う存在が、彼氏というものだ。心を許し、やがては身体も許すことだろう。そんな経験をしてみたい。だが、今の美鈴には、とても無理そうだ。


「変な夢を見る……。これも、ストレスなのかなぁ……。」


 着替えは、完了した。学校までは、電車を利用して、四十五分。時刻は、六時四十五分。とても、朝ご飯を食べていては、間に合いそうにない。美鈴は、再び一階に降りて、母に朝ご飯はいらないことを告げる。


「朝ごはんいらないの?昨日、夜遅くまで起きてたんじゃないの?何で、早く寝ないの?大丈夫なの?学校の勉強やったの?」


朝からこれである。押し寄せる質問の波に


「もう、やったよ!大丈夫だよ!わかったから、朝からやめてよ。」


母は、不安症の塊のような人物である。なぜ、そうなってしまったのか。美鈴はわからない。


―もう、やだ……。学校の出来事のことなんか言ったら、余計ヒステリックになるんじゃないかな……。―


 学校の出来事、それはいじめではなかった。

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