第5話 DAWN 5

―Avery― 

 一九四六年五月三日から一九四八年十一月十二日にかけて行われた東京裁判。アメリカから派遣されたジョナサン・ルーズベルトがメインとなって動いた日本を裁く裁判である。彼は、必要な法律を議会に提出する際にFBIと繋がりをもった。その時に、Averyの存在を知ることになる。


 その東京裁判において、精神異常と判断され、無罪となった日本人男性がいる。白川従三郎といった。彼は、日本政府が世界の覇権を握る機密情報を持っていた。その機密情報を持ってることをAveryは、知っていた為、ルーズベルトと謀り、彼をGHQの監督下におくことを条件に、無罪としたのだ。そこから、彼はどうなったのか、日本側は知ることができなかった。


 Averyは、日本の機密情報を知っている可能性がある人物である。


「Averyが入国するとなると、厄介ですね……。」


「単なるスパイであれば、私のチームが彼女を抹殺することができるのですが……。」


「そうね……。」


 彼女は、アメリカの陸軍省の時代からの人体実験によって、生み出されたもの人造人間であることがわかっている。通称AV-1 古典的ながら、解離性同一性障害をスパイに利用したものである。


「研究は、DARPAに引き継がれ、どのような人造人間に仕上がっているのか……。想像もつかないわね……。」

女性は、うつむき、口元に手を置いた。


「……そこで、私の案なのですが……。」


「……。何でしょう?」


 女性は、口元に置いた手を再び、机に置き、静かに男性に目をやった。


「私は、情報を隠せる場所は、脳にしかないと考えます。」


 洪水のような情報が、奇しくもDARPAが作ったネットの中に存在している。世界の人間が、それを使って、仕事に活かしたり、日々の生活を活かしたりとしている。それは、彼らも例外ではない。機密情報をクラウド上に保存しても、パソコン上に保存しても、もしくはデータをUSBに保存しても、何らかの形でアクセスしてくる可能性がある。

 現代は、情報戦である。過去の歴史を振り返ってもそうだが、情報を制したものが、その時代の勝者となる。


「……確かに。BMIも研究されたところで、人間の表層意識レベルまでしかできないはず。深層意識までは、恐らく再現が不可能……。」


「そして、脳の中身に眠る意識そのものには実体がありません。実体のないものに鍵さえかけてしまえば、情報を用意に取り出すことは不可能になります。」

 女性は、その時首を傾げた。「実体のないものに鍵をかける。」イメージ像がはっきりしなかった。


「つまり……?」


「こちら側も、解離性同一性障害を利用して、情報を埋め込みます。」


―解離性同一性障害―

 精神的な病である。二重人格として広く知れ渡っている。過度なストレスが引き金となり、発症をする。人格の入れ替えが、自ら行うことができる場合もあれば、できない場合もある。そして、別人格の時の記憶は、主人格に受け継がれないとなど、様々な特徴が存在するものだ。


「倫理的ではありませんが……。」

「それが……。」

男性は、一枚の写真つき履歴書を女性に見せる。


「桜井 美鈴……。この方は?」

「みのりヶ丘高校一年の女子高生です。学年で真ん中より上といったところでしょうか。」

「偏差値五十二のあの学校さんですね……。至って、標準の成績ですが、何故、その子に注目するのです?」

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