第2話 DAWN 2
女性は、机の上にあるデスクトップ型のパソコンに目を向け、マウスをカチカチと操作をする。男性は、その返答に対し、「はい」と答え、自身が持っているタブレットを操作し、メッセージを転送した。
「今から、ひと月前に、Averyの姿が見えなくなった……。……空港のデータは?」
女性は、冷静だった。慌てる姿を一切見せなかった。
「空港の監視カメラには、彼女らしき存在を確認することができませんでした。空港周辺も同様です……。」
「……空港の監視カメラは当てになりません。モスキートは?」
返答するだけの姿勢に、少し苛立ちを感じ、マウスを握る手が、少し強くなった。
「反応なしです……。」
モスキートとは、遺伝子検査モスキートのことである。飛行機に搭乗する際に、蚊に人工知能を搭載し、搭乗員全員が知らずに血液を採取され、遺伝子配列を分析する監視システムのことである。監視カメラにも人工知能を搭載しているが、あくまでもそれが外見のみの判断である。高度かつ精巧な整形には太刀打ちできない可能性がある。その点を補強しようと考案されたのが、この次世代の遺伝子検査である。
しかし、欠点は、莫大なコストがかかるということ。日本には、全ての空港九十七箇所のうち、拠点空港の役割を担うものが、二十八箇所存在する。それら全てにそのモスキートを配置することができない。羽田と成田だけでコストがかかるため、残りは対馬と福島に限定している。対する港は、日本には九百九十四箇所も存在するために、非効率とみなされて、設置はしていない。設置されていない箇所は、伝達事項のみで人間の作業ということになる。
「ヒューマンエラー……。」
女性は、左手で口元を抑えるのと同時に、厳しい表情で画面をにらみつけると、両手を机の上に置き、ため息をついた。
「失敗の報告をわざわざしに、あなたはここに来たのですか?」
場に緊張が走る。女性は、一方的な報告を極度に嫌う。状況の発展性がない上に、報告した人自身の成長もないからである。緊迫した空気に、男性は反射的に、唾を飲み込んだ。
「いえ。それとは別に重要な報告書が届きましたので、それを……。」
男性は、タブレットとは別に、封筒に入った文書を持っていた。封筒から取り出し、文書を女性に渡した。
「……DARPAによる高度転送技術研究……。」
女性は、一笑した。
「もっと、ましな理由を述べなさい。あまりにも、非現実的すぎます。確かに、DARPAは、アメリカ国防省のマッドサイエンティスト的な側面を持ち合わせていますが、これはさすがに……。まさかとは思いますが、異次元を介しての転送ですか?」
確かに、転送装置というのは、SF映画では、時折扱われ、非現実的かつロマン溢れるものだ。それはあくまでも物語の話であり、現況の前ではその話は無意味である。
「沿革、研究内容が書かれておりますが、如何せん、それは都市伝説の域を出ません。」
しかし、男性は彼の瞳は、真剣に現況と対峙していることを物語っていた。それを察したのか、女性は、「補足説明を」とだけ一言を添えた。
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