気付き ※リュート視点
※日常:夕刻〜夜あたりのリュート視点です。
「リュート様って、サンビタリア様のこと本当に好きですよね、お顔が柔らかくなりますもん!」
リーリが満面の笑みで唐突に言ってくる。
お茶を淹れたらサンビタリアが入れる時と違う味になった、本当はもっと美味しいという話をしただけなんだけど………。
ここは技術部顧問室の応接室。
報告書を出し終わったのでサンビタリアは姉君の件について話に実家に行き、僕はそのままリーリの持ち込んだ考えをまとめ実際の魔法陣や計算式に落とし込んでいた。
いまはキリが良くなったので休憩していたところだ。
他人と話し、考えを聞くのは好きだ。思考の整理になるし思わぬ発想を得られることもある。
サンビタリアは頼めば意見してくれるが基本的にはイエスマンなので、最初から遠慮なく意見を言ってくれる研究課の面々やリーリとの会話はそういう面で楽しいものだ。
だがこの手の話題は別だ。
「好き?僕が?まさか、僕がサンビタリアを異性として意識した上で好ましく感じてるってキミは思うの?」
本気でわからない。そもそも色恋の話は苦手だ。
侯爵家の養子になり、自費出版した魔術書などがかなりの売り上げになった頃から財産目当てやステータス目当て、技術盗用のハニートラップまで様々な女性も男性も押しかけて来たので辟易してしまった。
軍入りを決めた要因の一つだ。色々な制約はあるが変なヤツは近づいて来れないこの環境はありがたかった。
そういえば軍入り後、実戦部隊の指導前の肩慣らしとして学園に指導しに行ったことがある。
サンビタリアと初めて会ったのはあの頃だな……。
かなりやつれて疲れ切った顔をしながら見当違いの努力をしていたのが勿体無く、でもその見当違いな努力が、一生懸命さが微笑ましくも感じてしまい柄にもなく優しくした記憶がある。
「リュート様、いまサンビタリア様のこと考えましたね?」
リーリの声で我に帰る。完全に目の前の相手を忘れて物思いに耽っていた。
「いますごい優しい顔されてましたよ。サンビタリア様の話題だったり、考えてらっしゃるんだろうなーってときはいつもその顔です」
したり顔でリーリが言ってくる。言い方は巫山戯ているが、内容はおそらく本気なのだろう。
思わずため息が出てしまう。
「はぁ……サンビタリアに着替えも寝起きも見られてるし手伝われるけど、正直なんとも思わないな」
普通、好意のある異性相手にはよく見せようとしたり、気を抜いているところを見せたくないものではないのだろうか。あとは彼女に何か恋人のような事や性的な事をしたいか、と聞かれても「別に」としか答えられない。想像したこともない。
「えー、じゃあ」
リーリにそのように説明しても、まだ言い募る。
そろそろさっきの魔法陣を見直したいんだけど……。
「サンビタリア様が、リュート様以外の人に補佐として尽くしたり、誰かと結婚するとしたらどうします?」
「…………は?」
部屋の魔力濃度が一気に上がり、空気が張り詰める。
奥底から『絶対に認めない』『ふざけるな』という声が聞こえた気がした。
――ピシリ、と音が聞こえたのでそちらを見ると羽ペンが真っ二つに折れていた。
支給品の安物を使っていてよかった。
サンビタリアに貰った方のペンを折っていたら不味いことになっていた。
彼女は我慢して僕の前では笑うだろう。悲しいのを我慢して笑って、部屋に戻ってこっそり泣くんだろうな。
そんな事しないで怒ってほしい。彼女が文句を言って、そしたら僕が謝って、仲直りして新しいペンを2人で選びたい。
「やっ……ぱり、リュート様って、分かりやすいです、ね」
僕の魔力に当てられたのだろう、リーリがケホケホと咳き込みながらこちらを見て苦笑いしていた。
自分がいま何をしたか理解した瞬間、頭を抱えたくなった。
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