第32話 その後のことは
王太子妃カサンドラを流産させようと企んだ、アマリア・カルバリルは最後まで、
「私はそんなことはしていません!産婆が勝手にやったのです!」
と、叫び続けていたのだが、捕まえた産婆と産婆の助手として働いていたクララの証言が認められる形となって死刑が決定。もちろん、悪事に手を染め続けてきた産婆もまた公開処刑が決定されることになったのだ。
カルバリル伯爵は妻の暴挙に気が付くことなく、領政は弟のアマンド任せとしていたのだ。カルバリル伯爵家の人間は医療に従事することこそ天命と考えるような家だったのだが、伯爵の弟アマンドはアマリアの甘言に乗って横領に横領を重ねているような状態だった。
そのため、産婆の悪事については十分に理解をしていたカルバリル家の嫡男パヴロと、伯爵の弟アマンドとその息子たちについては終身刑を言い渡されて、鉱山奴隷として連れて行かれることになったのだ。アマンドの妻とパヴロの妹は辺境の修道院へ追放処分。
麻薬の元締めとなったイグレシアス伯爵家については、当主夫妻は死刑処分。残った親族のなかで麻薬の売買に関わっていた者たちは、鉱山奴隷として連れて行かれることになった。もちろん二つの家は爵位を剥奪されることとなったのだ。
オピの麻薬は依存性が高く、試しに一度だけ使ってみたという人でも、激しい後遺症に悩まされることがある。その為、王国としては禁止しているのにも関わらず、貴族による麻薬の大規模な密売はこれで二度目だ。
その為、戒めの意味も込めて全員処刑にすれば良いという乱暴な意見も出たには出たのだが、最終的には鉱山労働者として終身刑という形で収まることとなったのだった。
「ああ・・忙しい・・忙しい・・」
ドレスを身に纏ったカロリーネは鏡を覗き込みながら、ネックレスの位置を何度もなおす。
今、カロリーネが着ているネイビードレスはコルセットなし、スカートを膨らませるためのトリノリンなしのドレスとなる。胸元からヒップラインまではフィットしているデザインであるものの、膝から下は、まるで百合の花弁が開いているかのように美しく広がる『人魚の(マーメイド)ドレス』と呼ばれるもので、今現在、爆発的に売れているドレスだ。
濃紺(ネイビー)は一見すると落ち着きすぎている色合いにも見えるのだが、新緑の髪を高々と結い上げたカロリーネには良く似合う。
「よし、これで良いわ!」
くるりと鏡の前で回ったカロリーネはにこりと笑みを浮かべると、エスコートの為にエントランスで待ち続けている兄の元へと向かうことにした。
王家主催の断罪パーティーで多くの貴族が捕まることになったのだが、一通りの裁判が終わるのを待たずにコンスタンツェとセレドニオが結婚をした。二人の結婚式の数ヶ月後にはカサンドラが無事に出産をして、玉のような男の子を産み落としたのだった。
そうして、出産後、始めての春を迎えた晴れた日に、カサンドラとアルノルトは周辺諸国の要人も招いて、大々的な結婚式を挙げることになったのだった。
二人の結婚式には多くの要人が訪れることになったのだが、遥かスーリフの東に位置する鳳陽からは皇帝の六番目の皇子が祝いの為に訪れたし、スーリフ中央に位置する大国シントからは王女、シンハラ島からもアルカラの長が訪れたし、南大陸からも、多くの族長たちが訪れた。
船の開発が進んで貿易が盛んに行われるようになったとはいえ、クラルヴァイン王国の周辺諸国は、王太子夫妻を祝ってこれほど多くの国々の人々が訪れた事実に驚愕をしたし、
「これは新しく交易路を開拓するのに丁度良い機会となるぞ!」
と、張り切り出す者も多かった。
日中は神の前で夫婦の誓いを行い、夜には王宮で大舞踏会が開かれることとなるのだが、国内の貴婦人にコルセットなしのドレスを広めることに成功をしたカロリーネとしては、周辺諸国のレディたちもヒイヒイ言わせて虜にしてやろうと張り切りまくっているのだった。
「お兄様、お待たせ致しました」
カロリーネには二人の兄が居るのだが、一人はすでに結婚をして子供もいるような状態だ。二人目の兄エドガルドは婚約者も居ないまま文官として働いているため、最近のカロリーネのパーティーのエスコートはエドガルド一択状態となっている。
「今日もカロリーネは美しいね」
平凡そのものの容姿をした人の良さそうな兄が、瞳を細めながら妹を褒めると、その場でくるりとカロリーネは回りながら、
「このドレス、私も欲しいわ!買いたいわっ!と思って頂けるかしら?」
と、言い出した。
カサンドラからドレスについては丸投げされることになったカロリーネは、服飾専門の商会を立ち上げることにしたのだった。
マダムカテリーナのところのメゾンは完全なるオートクチュールで、高貴なる貴婦人向けのオーダーメイドとなる。コルセットなしのドレスを爆発的に流行させたいと考えたカロリーネは、オーダーメイドをマダムに任せて、自分はセミオーダーと既製品の服を作ることにしたのだった。
なにしろ両親が先行投資だと言ってドレス工房を三つも建ててくれた為、これを利用しない手はないのだ。幼い時から事業を立ち上げるカサンドラを見てきたカロリーネは、女経営者としての能力を発揮した。
誰しもコルセットは嫌いだったのだ。
確かに腰をギューーーッと絞って、枠組みを作ったドレスでどかっとスカートを広げれば、ボッキュッボンの可愛らしいレディーの出来上がり。
腰は細ければ細いほど良いという価値観が、ここ数十年のうちに根付いてしまった為、子供の頃からコルセットを着用させたり、その所為で健康被害が出たりと、コルセットとトリノリンを利用するドレスは曲がり角に来ていたとも言えるそんな時に・・・
『クリノリンだとかコルセットだとかいう不健康なものなど着用したくはありません、そもそも私のボディにコルセットは必要ありません!外側は至って問題ないのです。クリノリンだのコルセットなど使わない、女性の自然の美しさが愛でられるドレスを作って送りなさい』
と、言う鳳陽国の皇后の言葉はカロリーネに深く突き刺さったのだった。そして、断罪パーティーで鳳陽ドレスを着用したカロリーネは、確かに普段からこのようなものを着用していた人に、クラルヴァイン方式のコルセットやらクリノリンは嫌われるだろうと考えた。
コルセットがないドレス、しかもクラルヴァインにも鳳陽にも受け入れられるドレスとは・・それは魚ドレスに他ならないのでは?
「魚ドレスってナマエが、ドウカト思うのネ〜」
シンハラ人のアクシャにも受け入れられなかった『魚ドレス』は改名をして『人魚の(マーメイド)ドレス』としたところ、売れた、売れた。爆発的に売れたのだから・・
「娘の為に先行投資が過ぎるだろう」
「エンゲルベルト侯爵家は事業下手」
「絶対に泣きをみることになるぞ」
と、言われていた侯爵家は面目躍如をすることになったのだった。
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カドコミ・コンプティーク様にて『悪役令嬢はやる気がない』(高岸かも先生 漫画)で掲載!ネットで検索していただければ!無料で読めます!こちらも読んで頂ければ幸いです! 明日の2話更新します!
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