第17話  海賊サンジーワ

 シンハラ島出身のサンジーワは、自分の手下を連れてクラルヴァイン王国へとやって来た。サンジーワは海賊を専門に討伐をする海賊であり、祖国から遠く離れたクラルヴァインで一軒の店舗もかねた家を購入していた。


 シンハラの人間は褐色の肌で、目が二重で大きく、鼻が高い。額が広くて細い顎が特徴で、一見するとクラルヴァインの人間と顔の造形自体は似通っているように思える。


 いくら造形が似通っていると言っても、スーリフ中央にあるシンハラが祖国とあって、文化も違えば言語も違う。いくらクラルヴァイン王国が外国人に対して寛容だと言っても、肌の色が違う自分たちを誰かしらは嫌悪することになるだろう。


 サンジーワとしては、予定通りに海賊を討伐したら、すぐにでもシンハラに帰るつもりでいたのだ。連れて来た妻のアクシャがノリノリで、

「私!鳳陽人街でお店を出すつもりでいるのよ!」

 と、言い出すまでは。

「お店はもう決めたの」

 と、妻が言い、

「パンジャビドレスの専門店を開こうと思うの!」

 と、言い出すまでは、本当の本当に、さっさと帰るつもりでサンジーワはいたのだ。


「おかえりなさいませ!」


 バルフュット侯爵が統治するカレの港周辺に出没するという南大陸からやって来た海賊の討伐を終えたサンジーワが、疲れ果てた様子で店の扉を開けると、手下の妻が笑顔でサンジーワを出迎える。


 妻のアクシャが満を持して開店したパンシャビドレスの専門店は、客も訪れずに閑古鳥が鳴いているような状態となっていた。パンシャビドレスは、色鮮やかなシンハラの民族衣装となる。膝丈まであるチュニックとズボンを合わせて着用するのだが、クラルヴァイン人が好んで着るようなものではない。


「アクシャは?」

「奥様はバルマンまでお仕事に出かけております」

「バルマンだって?」


 バルマンとはオーダーメイドの高級服飾を扱う店の名前で、ジェロニモ通りにメゾンを構えている高級店のことだ。

「まだアクシャはあの店に出入りをしているのか?」

「出入りをしているというか、あそこのお店で働いています」

「なっ・・・」


 クラルヴァイン王国では鳳陽人の技術者を招聘するために、鳳陽街という外国人街を作りだしていた。鳳陽人が忌避感なく住むことが出来るようにということで、食堂、食材店、雑貨屋、家具店など軒を連ねているのだが、建物自体もクラルヴァイン方式ではなく、鳳陽方式を取り入れているというこだわりようだ。


 最近ではこの鳳陽街の隣にアルマ公国の文化を取り入れたアルマ街というものが出来ていて、どちらの客も取り入れるようにと、二つの街の境目付近に妻のアクシャは服飾の店舗を構えたということになる。


 店には客が来ないので閑古鳥が鳴いているのだが、アクシャが雇った手下の妻やら娘やら二十人、何やらチクチクと縫い物をしていることが気に掛かった。


「それで、お前らは何をさっきからやっているんだ?」

 サンジーワの問いかけに、顔をあげた手下の妻どもがニコニコしながら言い出した。

「試作品のドレスに刺繍をしているんですよ」

「これで結構な手間賃がもらえるんです」

「クラルヴァインは、新しい流行をドレスに取り入れる予定でいるみたいでね、私らシンハラの伝統的な刺繍の技術が認められることになったんですよ!」


 サンジーワは女たちが広げて見せる鮮やかな刺繍模様を眺めて、ハンッと鼻を鳴らしたのだった。認められた、認められたと言ったところで、婆さんでもやっている、いつもの良くある刺繍模様にしかサンジーワには見えないし、それが驚くほどの金になるとは到底思えない。


 また、夢見がちなアクシャが余計なことを始めたな。と、考えたサンジーワが苦虫を噛み締めたような表情を浮かべていると、

「ポシェット取りに来ましたー!」

 手下の子供が真っ赤な顔で店の中へと駆け込んで来たのだった。

 思わず手下の子供の頭を掴んで持ち上げたサンジーワが、

「ぽしぇっととはなんだ?ぽしぇっとは?」

 と、問いかけると、

「旦那、これがポシェットです」

 と言って、シンハラ島から持ち込んだ染色も鮮やかな布に刺繍を施した小ぶりの手提げ袋を、部下の嫁が掲げて見せる。


「とりあえず20袋出来たから、残りは今日中に終わらせるつもりだよ」

「まだ追加で発注するかもしれないって言っていたよ?お貴族様たちが飛び付くようにして買っているからまた売り切れるかも」


 顔を上げた部下の嫁たちが、大きなため息を吐き出しながら口々に言い出した。


「旦那、私らだけでは注文に追いつかないような状況なんですよ。早急に、シンハラから人を送って寄越すように言わないと」

「大金を稼ぐチャンスですよ!」

「今!シンハラの刺繍技術が求められているんです!」


 海賊退治をして帰って来たばかりのサンジーワには、何がどうなっているのかが分からない。とにかく、早急に妻を捕まえて、何がどうなっているのかを問いたださなければならないようだ。




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 カドコミ・コンプティーク様にて『悪役令嬢はやる気がない』(高岸かも先生 漫画)で掲載!ネットで検索していただければ!無料で読めます!短期連載で、クラリッサ編までのお話となりますが、こちらも読んで頂ければ幸いです!


 ただいま『緑禍』というブラジル移民のブラジル埋蔵金、殺人も続くサスペンスものも掲載しております。18時に更新しています。ご興味あればこちらの方も読んで頂ければ幸いです!!

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