22 和三郎 親友同士の再会をぶち壊す
まぼろし仏教団の教祖・取手軍三さんが月光王菩薩の腹の上でむくりと上半身を起こした。
軍三は耳の穴の綿を引き抜いて、それから鼻の穴に指を突っ込んで、綿を取り出した。
「息が詰まったー」
「えっ、えー? 軍三?」
是政が仏様集団を見た時よりも驚いた表情で固まった後、ようやく言葉を吐き出した。
菩薩の腹の上、死に装束の取手軍三さんが是政の方を向いた。
「よう、マサさん。
いつもすまんのう」
「おま、軍三ぉっ!」
「阿弥陀如来様に連れて行ってもらう。後の事は頼んだからな」
「いや、頼んだからじゃないだろ。あんな馬鹿息子どもの相手させやがって」
「すまん。マサさん」
マサっていうとマサ斎藤しか思い浮かばんな等と余計なことを思いながら、和三郎は取手軍三さんを眺めていた。月光王菩薩から降りてきた軍三さんに、是政が駆け寄る。
「もういいよ。マサさん。もう充分だ。息子たちの事は気にせず、教団は畳んじゃってくれよ」
「いや、でも。お前と一緒に大きくしてきたんだぞ。これからだったんだぞ」
「そうだなあ。マサさんには迷惑かけ通しだったなあ」
「そんな、迷惑だなんて、軍三。おれはそんなこと思ったことないよ。苦労とか思ったこともないよ。わかったよ、綺麗に畳んでやるよ。だけど、あいつら、息子たちには何も残さないで畳むからな。全部お前の病気の治療研究やってるとこ、水門ニック研究所に寄付してやるからな」
是政が弱気を見せて、ぐずぐずと泣き顔で答えた。
「頼子も喜ぶな」
軍三さんが答える。
「いやいやいや、ちょっと待てよ。こんだけ大騒ぎしておいて、なーに感動的な別れを演出してんだよ、お前らあ」
ぐずぐず顔の是政と、ぼーっとした軍三さんが和三郎の方を向いた。
和三郎の後ろには、菩薩の攻撃で1階まで弾かれてきたヒルヒルに、ケンゾーとリンちゃんが控えていた。
「軍三さんに質問」
「何かな? できるだけ答えよう」
「あんただろ、阿弥陀如来を召喚んだのは」
「そうなのかね? 自分は召喚んだつもりは無いんだがね」
「じゃあ、なんで菩薩連中が、あんたの出囃子が『儀式』だって知ってんだよ」
「さあ? 私の頭の中を覗いたんじゃないかね? 菩薩様が」
「阿弥陀如来と、二十五菩薩が迎えにやってくるっていう西方浄土のお話ってのは、そんな話ばっかり集めて今昔物語ってのがあるくらいに、昔から人気があるんだよ。仏教徒なら死ぬとき、お迎えが来たらいいなあって思うくらいに普通に頭の中に刷り込まれているんだろ?」
「うーん、なんでも仏教に紐づけて考えてしまう。そういうところはあるかもしれないな」
「だから、あんたが呼んだら如来と菩薩だったんだ」
「え? それはどういう意味だ?」
「メキシコじゃ、死んだはずの人間が迎えに来たらしいしな。死者の日にさ。仏教で言ったら徳が高い、信仰に篤い、想念の強い人物が願ったんだろ。強い想いが重なって残った処に如来様がやってくるんだろうよ。残留思念とかそういうやつなんじゃないか?」
「さあね、死ぬ前に何を思ったか、そこまでは覚えていないよ。そういうもんなのかね? 純粋な想いが召喚ぶのかね?」
困惑気味に軍三さんは尋ねた。ケンゾーは大きく頷いた。
「強い想いは具現化するよ。いつも僕の傍にリンが居るように。望めば仲間だって増やせるさ」
いつの間にかドクゾンビは姿を消していた。代わりにケンゾーは新たなカードを取り出して、円錐形を弾かせた。ぐももももっとガルムが一匹飛び出した。
その大きな狼に是政はびびり、軍三さんは目を輝かせる。
「で、軍三さん、俺思ったんだけどさ」
「ふむ」
「死の間際、
頼子ちゃんは何を召喚んだんだ?」
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