21 和三郎 激しくダメ出しする
ヒルヒルは阿弥陀如来までの距離を目測して、何の躊躇いもなく跳躍する。
ドガチャカチャカポコと演奏に忙しい菩薩達には脇目も触れずに、阿弥陀如来を急襲した。
阿弥陀如来の右顔を拳で撃ち抜く。ぐるんと如来の首があらぬ方向へ曲がる。さらに左拳が襲い掛かる。左に流れたため、左拳が如来の鼻面に炸裂する。続けて右拳が耳朶を抉り、びろんと長い福耳が千切れ飛んだ。左拳が蟀谷と螺髪をとらえ、ガリガリとプチパンチパーマな螺髪をえぐり取っていく。さらに右拳が顎関節にめり込む。
右左、右左と阿弥陀バスターの拳が、阿弥陀如来をおらおらおらおらおらおらと殴り続ける。
しかし、阿弥陀如来はすさまじい回復力で、殴られる傍からドガチャカと顔面を修復していく。
是政は悟った。
「今、とんでもないところに足を踏み込んでいるんだな」
「まあね。常世と幽世の狭間だね。精霊界とは全く違うけどね」
「精霊界って……丹波哲郎はちょっと……ね。」
宗教関係者であるせいか、是政はそっち関係はそこそこ詳しいらしい。
「ノストラダムスの予言を語ってると思ったら、最後は大霊界だものな。是政さん、オカルト系は詳しいね」
「まあ、職業柄ね。配信はそのう……やめておく」
「そうだな、それがいいだろうね。しかし、この膠着状態はどうにかならんかなあ」
菩薩とドクゾンビのヴァーリ・トゥードは続いているし、上から肉を叩いている鈍い音が響き続けている。
「どうにもこうにも狂気も常軌も相いれないから終われない。
よっ、和三郎くん、加勢に来た!」
「ケンゾーさん、助かった」
「けど、あんまり役には立ってないな。これでは遺体を持ってかれる。ドクゾンビはちょいとお疲れ気味だし、ヒルヒルもああも回復されては、直に限界が来るよ」
よく見れば、ドクゾンビが引き剥がされる回数が多くなってきていた。菩薩達は確実に棺に近づいている。
「なんなのよ、これ! 直ぐに直って、なんかムカつく。
小っちゃいパンチパーマ百八つも生やしてんじゃないわよ!」
ヒルヒルが毒づいた。それ程阿弥陀如来の回復度合いが凄まじく早いのだ。
ドカチャカだった演奏がはたりと止んだ。気づいたヒルヒルが如来さまを殴りつけながらも、周囲を確認する。
菩薩が独鈷杵を構えて、念仏を唱えだした。菩薩の掌を中心に独鈷杵がぐるぐると高速回転を始めて、怪しい光線をヒルヒルに発射した。
「やっば!」
避けられないと踏んだヒルヒルは腕を十字に構えて防御態勢を取る。すぐに光線がヒルヒルを捉える。物理法則無視した光線の衝撃に押されて、ヒルヒルは屋上へ直撃コースに入った。
「蛭子をなめるなっ、くそ菩薩どもぉおおっ」
ヒルヒルは菩薩達を視界にとらえつつ、両腕を両脇に沿える。握ったコブシの先から銃弾を放つ。屋上の床を丸く銃弾がくりぬいていく。屋上の床面を丸くぶち抜いたヒルヒルに、今度は3階の床が迫る。同じように銃弾を放ち、床をくり抜く。床をぶち抜き、今度は2階の床をぶち抜く。そのまま1階にたどり着いたヒルヒルが、大理石の床をえぐりながらずざざざと着地する。
その際、中央に安置された取手軍三さんの棺を思い切り破壊してしまった。
死に装束の取手軍三さんが宙を舞う。
「ああああ、わたしやっちゃった!」
「ヒルヒルっ!」
「ああっ軍三っ!」
投げ出された軍三さんの死体を目で追いながら、是政が叫ぶ。
取手軍三さんの遺体は床で右往左往していた
「だらだらだーだらだらだらだらだらだーだらだらだだー」
「いやいやいやいや、それはだめだだめだだめだだめだ、これさあっ、これっ! 絶対『海洋地形学の物語』だろぉっ!」
和三郎が激しく叫んでダメ出しをする。
是政が困惑しながら、
「え……イエスぅ?」
某有名プログレッシブロックの雄の名を呟いた。
「そうだよ。こいつら阿弥陀如来と二十五人の菩薩で以て、ドガチャカドガチャカ演奏しながらやって来ただろっ、そん時はこの曲じゃなくて『古代文明』だったけどなっ」
是政は和三郎に向き直り、演奏を始めた菩薩達を指差しながら叫ぶ。
「こ、これっ! これっ!」
「ん?だから、イエスのかいよ……」
「軍三の出囃子っ! 説教とかする時、この曲で、この曲で登壇するんだ!」
「『儀式』で登壇? まじかーっ!」
和三郎とケンゾーがユニゾンする。
イエスの『海洋地形学の物語』の『儀式』が流れる中。
月光王菩薩の腹の上にポトリと落ちていた、取手軍三さんがむくりと上半身を起こした。
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