15 和三郎 ニョクマム臭いと思う

「9番は初めて見ます」

9番左腕をばしゅんと換装しながらヒルヒルがつぶやく。

「一回り大きいよね。ゴリラの方のコンボイ長官みたいだな」

「確かに太くてリーチが長いです」

棍棒の様だった9番左腕は、換装と共に変形し、折りたたまれていた部分が開かれたり、内部でギアがかみ合わさる音と共に、巨大化した。ヒルヒルの身体に対して、腕の比率がかなりおかしな具合になっていた。ゴリラのような姿勢に自然となる。

ヒルヒルは9番左腕と弓用右腕を目の前で並べてしげしげとみつめる。見つめている傍から、右腕は破魔矢の衝撃でできた亀裂から、表面装甲がぽろぽろとはげ落ちていた。


すちゃっ。大きな左手をハサミのように握り直し、身構える。

「シオマネキング」

ヒルヒルが笑った。


「よしなさいよ、あの怪人、そんなにシオマネキ感がないんだからさ」

「そうそう、どっちかというとウミウシですよね。アビー、アビアビアビ、アビー!」

「ヒルヒル先生はいったいいくつなんだよ、沢りつおの真似うまいな!」

今は配信でいろいろ観れちゃいますからねと笑いながら、右腕も9番右腕に付け替える。


ぼしゅん。

両腕が大きくなったせいで、ほんとにオプティマスプライムコンボイ長官のようになった。


「どうやら蛭子命の末裔らしいですよ」

「ああ、ビールの神様」

「そうです、神様なりそこないのくせに神様の子供という中途半端な。

私の場合、先祖帰りというか、蛭子の資質が色濃く出ちゃってですね。生まれた時、百鬼丸、手萎足萎え状態だったんですよ」

「仕込み刀の代わりに義肢使ってるけどな」

「昔はいっぱいいたでしょ、手萎えの人とか。なんか薬のせいで。あの頃だったら、もう少し受け入れられたのかなあって思ったりします。私にとっては無いのが当たり前だったんで、周りの腫れ物に触る的な対応が少しは減っていたかなと」

「そうかなあ。よくわからんものを拒否しようとするのは、昔の方が激しいような気がするけどね。」


ヒルヒルは右脚を切り離す。立った状態で9番右脚をばすんと装着する。今度は脹脛に収納されていた大腿部ががこんと伸びて、身長が高くなる。ヒルヒルは少しよろけてしまった。

「こうなってくると、コンボイ長官というよりはハルクバスターだねえ。扱ってる事件が事件だから…」

和三郎は阿弥陀如来を見つめながら

「阿弥陀バスターってとこかね」

階下からの悪臭は先ほどより強くなり、喧騒も激しくなっている。

ケンゾーとリンの楽しそうな掛け声が響いている。


「両親が少しでも人間に見えるようにと、取りあえずの義肢を用意してくれたんですけどね。あんまり出来のいい義肢ではなくって。義肢には申し訳程度の手みたいな恰好のものがついてました。気が付いたら、そのう…可動処理のしてない指先を器用に曲げて使っちゃってました。どうも萎えた部分に繋げたものを自在に操ることができるみたいです。神様寄りの混じり者でもありました」


混じり者。何が原因で起こるのかさっぱりわかってない。人間の人知を超えた力が顕現した人のことを指して、こう呼ぶ。結構差別的なニュアンスが多分に含まれている。戦後は混血児と同じ合いの子と呼ばれていた。高度経済成長辺りからは混じり者呼びが増えて、ハイブリットが推奨されてるけど、未だに混じり者と呼ぶ人間の方が多い。


続けて9番左脚を換装する。変形が完了すると、ヒルヒルの背丈は3メールほどになっていた。

「見るからに力業でどうにかしようってタイプだね」


…………ブウウ――――――ンンン――――――ンンンン………………。

両手の甲に三つ柏の紋が輝く。

両腕両脚から、ボディを守るように結界が展開した。

「おお、これ近接戦闘用義肢ですね」

ヒルヒルはぶんぶぉんと風を巻き起こしながらシャドウボクシングをしてみせる。

両腕を前方に構えたら両上腕からバレルが飛び出した。

「一応飛び道具マシンガンもついてますね」

ばららっ弾を発射して教団の壁に大きな穴を穿ってみせる。

「あぶないなあもう。」


「それじゃあ行きます。

危ないから

ワサワサくんは階段使ってくださいね」

「わかったよ、ヒルヒル。弓矢の義肢はどうする?」

「一応、3番のケースの所にひとまとめにして置いてください。

私は阿弥陀如来に一発、叩き込んでみます!」


そういうとヒルヒルは阿弥陀如来までの距離を目測して、何の躊躇いもなく跳躍してみせた。そのまま阿弥陀如来を急襲する。

肉が潰れるような嫌な音と、楽器が破壊されたのか弦がちぎるベイーンという音が響く。

3番ケースに義肢と弓矢を集めた和三郎は、ゆっくりとした足取りで階下へと向かうのだった。


「膝に来てるね」

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