6 和三郎とるるるのる

「るるー」


リンは腕組のまま、ふんぞり返る。しかし、どこからどうみても10歳くらいの女の子にしか見えない。


「ゴブリンに見えない。肌の色も緑じゃないし。これじゃあ、ウールピットの怪事件にもならないでしょ。」


ゴブリンといえば、醜悪な緑の小人ですよね。鷲鼻だったり、体臭臭かったりする。RPGとしてはスライムと並ぶチュートリアル要員ですよね。


「わっははは。うん、最初はウールピットよろしく緑色だった。いびつでゴツゴツしてたよ。何度か呼び出すうちにこうなった。リンとは子供のころからの付き合いだからね」


「るるるっ」


リンは嬉しそうにさえずった。


佐々門姉さんが口を開いた。


「想念のなせる業だね。マルクト乙式魔導札は、強く想う気持ちが強ければ強いほど、召喚びだした怪物が鮮明、正確に再現される。そこは、仮想現実世界で実装されていた時と同じ。リアルな召喚でも全く同じ現象が起こってるんだって」


「召喚何度もしてるとさ、みんな怖がっちゃうんだよ。ゴツゴツした見た目で緑色だからね。いくら危害は加えない、味方なんだといってもね。どうしたって別の生き物だから怖がってしまう。

なんとかならんもんかといろいろ試すうちに、ちょっとずつ姿かたちが変容して、ま今のカタチに落ち着いた。ウチの姉さんの小さい頃にそっくりなんだけどね。姉さんは非常に嫌がっているけどさ」


ケンゾーはリンの頭をぽふぽふしながら話してくれた。リンはというとケンゾーのぽふに合わせて「るっ」「るっ」と返事をしている。


仲のいい兄妹にしか見えませんねえ。


「マルクト乙式魔導札は元来が、学園に設置されてた仮想現実的格闘技場での使用が目的で、召喚可能なモンスターのデータ蓄積に使われていた。そのデータに想念で以てアクセスして、対象のモンスターを呼び出すという方法がとられていた。で、強く想えば想うほど、強くて精緻なモンスターを召喚できた。その想いがシステムの許容範囲を超えた場合どうなるか?」


突然、田部サンがイケボな感じで喋りだした。いいとこ全部持ってかれてやもんね、佐々門姉さんに。


「ババーン!」


田部サンってば大きく両手を広げて、擬音を炸裂させた。


「あふれた想いに耐え切れず、カードは爆発する。魔導札を最初に設計した者は、人間の想念の凄まじさを見くびっていた。とはいえ、よっぽどの強い想いがないと爆発までは行かないんだけどね」


ケンゾーがリンをぽふりながら言葉を継ぐ。


「強い想いの持ち主は大抵クセの強い人間が多かったよ。役者とか芸術やってる人とか、ストーカーとか連続殺人犯とか、ヤバい人ほど強い気持ちを持っていた。

これを受けて仮想現実仕様のものはいろいろ改造が施されて、召喚はできなくなってる。召喚不可バージョンに切り替える直前、超強力気違い外道松戸君の暗躍で、なぜか召喚不可実装前のカード一式がストーカーの谷山さんの手元に渡った。以降、そのカードが谷山カードと呼ばれているわけ。あらかた全部回収されたはずなんだけど、どうも完成度の高いコピーが出回ってるらしい。それを調査するってのが僕の任務だね」


「るーるる」


「それで僕とヒルヒルは御仏アブダクションを調査と。というか、平安時代にまとめられた説話集の極楽浄土案件が、これ、現代でも起きてる。その認識でよろしいですか?」


和三郎は不安になったのか、みんなに尋ねた。


「そうだね。結構頻繁に起きてるよ。表ざたにならないだけでね」


西から偉い人の死体を狙って

現れる楽隊を引き連れたお釈迦様やら菩薩様やらの集団って?

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