7 和三郎 バンブルビーと聞き間違える

ということでヒルヒルが詳しいことは知っていると。

「ヒルヒル……淡島サン」

「いいです」

「え?」

「ヒルヒルで良いですよ。もうみんなにそう呼ばれてるってバレちゃったし」

「なんでヒルヒルなの?」

「蛭子だからですよ」

「ああ、佐々門サンがビールの神様になったと言ってたな」

「ホップの神様じゃないですよ。神様に成れなくて、海に流された方です」

「へ?」

蛭子命ひるこのみこと。もしくは大国主命おおくにぬしのみことの子供、事代主神ことしろぬしのみことと言われてますね。でもどうやら私は蛭子の方ですね」

「そんでもって名前がハルコだから、蛭子のヒルヒル。ほんとに蛭子なの? ヒルヒルは」

「混じり者っていうそうですよ。神様的な要素が混じった人間ってことらしいです。混じり者って言われても、実感はないんですよね。私にとっては普通のことだったから」


えーと、混じり者ってのは聞いたことがある。怪異と混じった人の事を指す言葉で、差別的な意味合いが強い。ちょっとまえはデビルマンって呼ばれてた。今だとハイブリットって呼ばれてる、これも灰ぶりとか当て字にを当てて馬鹿にする言葉にもなってるな。混じり者は社会的にも冷遇されてる。なんせ原因は分からないけど、怪異と混じってしまっているから、畏怖されてしまう。触らぬ神に祟りなし。神様的な要素が混じれば良いけど、ほんと変な怪異と混じると、途端に差別されてしまう。

「適材適所に液体窒素で敵対勢力撃退せよと」

「ええ。目には目を歯には歯を、妖怪には妖怪をですよ」

「カルバリン砲のハンムラビ法典と」

韻が踏めたよ、ってケンゾーくんに影響されすぎだね。


東京近郊のどこか。イメージとしては中央線の吉祥寺以降高尾山の真ん中あたりの中途半端なイメージのあるところ。そこに仏教系宗教団体の本部施設がある。

教祖が危篤状態になって、3日が経った。わざわざ招聘したご近所の住職さんたちが結界を張ってこの教団施設を守っている。邪気を払い、教祖の延命を図る。

と言ってもだ。それも時間の問題だろう。カリスマがあるのは教祖一人のみ。後継者は居るには居るが、ありゃただの金の亡者だ。教祖が亡くなったら、遅かれ早かれ、この教団は瓦解する。

「是政様」

「どうした?」

「警察の方がお見えです」

「警察? なんだ信者の寄進でトラブったか?」

「いえ、そうでは無いようでして…」

「じゃあ何だってんだ。教祖がヤバいってのに」

「その…教祖様に関してとのことです。詳しくはお会いしてからと、詳細は教えていただけていないのですが…」

実質理事会を取りまとめている是政は舌打ちをする。この忙しい時に何しに来たんだ?

「わかった。私が出向く」

イライラと大声をあげて、入口ロビーへ向かった。


ロビーに居たのは、上下黒の草臥れたスーツを着たひょろひょろとした男と、大きなコントラバスケースを引く女子高校生だった。

「本当に警察なんだろうな」

是政の顔が歪な表情を張り付けた。


そんな近づいてくる是政を視認した和三郎は思った。

あれ、絶対俺らのこと、警察だと信じてない顔だ。

警察手帳見せても信じないだろうなあ。おまけに女子高生も一緒だし。

手帳持ってきてたよな。

これから自分が説明する荒唐無稽なことを思うと、

和三郎は益々不安になっていった。

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