5 和三郎と五分五分

「ケンゾーは谷山カードの追跡お願い」


「また出てきたの?」


「そそ。また出てきたよ。今回は爆発じゃなくって、出てくる方」


「ありゃりゃ、まだ本物残ってたの」


「どうも、新規作成されたものらしいよ」


佐々門がケンゾーに説明をする。


「谷山カードって?」


なんとなく興味を惹かれたので、和三郎は佐々門姉さんに質問してみる。


「谷山カードってのは、この課での通称でね。正式名称はマルクト乙式魔導札」


なんか聞いたことがある。たしか学校だったはず。


「マルクトっていうと例の魔法学校?」


「よく知ってたね」


おお、正解だったか。


「事件当時、高校時代の同級生が通ってたんで」


「あれ、それだと計算合わないような」


「『俺は魔法使いになる!』って、脱サラして入学したんで。」


「へー、相当な決意で入学したのに、残念だったね。魔法の普及のために作られた専門学校で、政府肝入りだったけど、全然普及しなかったやつね。まあ、あんな不祥事出しちゃねえ。

そんでもって、その学校を閉校に追い込んだ張本人がケンゾーだよ」


「!」


「いやだなあ。僕は巻き込まれた被害者だよ。率先してやらかしてたのは桐崎クンたちだから。桐崎クンってガタイがでかいイケメンだったんだけど、困るとすぐ指くわえるんだよ。捕まる寸前はくわえまくってたよ。その姿が可笑しくってねえ」


ケンゾーはニコニコと答える。るーとリンが大きく頷いている。


たしか、正式にはマルクト魔法学園だったかな。数年前になんか知らんけど、魔法ブームが到来したんだよな。おそらく国を挙げて魔法の概念を国民に植え付けようとした最初のプロパガンダだったように思う。マイナンバーカード創成期並みに、認知度が低かったけどね。


それに、ほんとに魔法を使う訳じゃないんだもの。えーとVRだっけ、仮想現実空間を使って、魔法を再現しようという、なんちゃって魔法みたいなやつだったから。


なんちゃってのクセに、魔法をVRの中で再現するには、なんかいろいろ魔法について学んでいかないと、魔法を行使できない。そういう妙に生々しいプロセスが採用された魔法使い育成RPGみたいなもんだったなあ。


今思えば、政府は「魔法は実在する」とか、そういうことを公表して、段階的に魔法行使を一般化しようと考えたのかねえ。船頭が多すぎたのか、何だかうまくいかなかったみたいだな。知らんけど。


その中でもカードバトルに特化した学校が、マルクト魔法学園だった。わかりやすいんで一番人気もあったな。


カードデッキを組んでカードバトルをするのは、リアルでの対戦カードゲームと一緒。闘技場が併設されていてそこでカードバトルをすると、実際に使役モンスターを召喚してる気にさせる演出が話題になっていた。


高校ん時の同級生、古田だったか吉田だったかが、サラリーマン辞めてのめりこんだっていう話を、地元のおかんネットワークで知ったんだった。久しぶりに会ったそいつに聞いたら、むっちゃ本気だった。『お前だったら30歳まで待てば、魔法が使える』って言ったら豪い怒られたっけ。


バトルに使う専用のカードで学校の職員がなんかいろいろやらかして、閉校になったんだよな。




「カードの利権争いでもめて、閉校になったということになってるけどね。本当は別に理由があってね。あのカード、実際に召喚出来ちゃったんだよ」


「るるるー」


なぜかリンが腕の組んで胸を張り、どや顔になった。


「うん、召喚魔法が使えちゃったわけ。召喚魔法冗談だろうってね」


ケンゾーが同意する。


「じゃ、さっき言ってた谷山カードってのは」


ケンゾーが胸から1枚、キラキラと光沢を放つカードを取り出した。


「これが谷山さんカードって言われてるやつの1枚。超強力スーパーストーカーな谷山さんって娘が使ってたから、その名で呼ばれてるね。そのカードで襲ってきた超強力スーパー気違い外道な松戸くんてのがいて、僕はひどい目に遭ったんだよね。そん時に、僕がゴブリンのリンちゃんを召喚び出して松戸くんを返り討ちにしたんだ」


ほえー。


「ゴブリンって。あの緑の小鬼っていうか、スレイヤーさんの敵っていうか、ダンジョン踏破の最初の試練というか、メンバー入れ替わりの激しいイタリアのプログレバンドのそれ?」

「クラウディオイタリアのプログレ・シモネッティバンドは違うけど、まあそれだよね」


ケンゾーが相変わらず腕組み状態のリンの頭をポンポンする。


「ひょっとして……」


 失礼だけどリンを指さしてしまった。


「そう、このコがゴブリンのリンちゃんです」


「るるるーっ」


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