4 和三郎 せーしゅーらーげに戸惑う

「それでは説明しておくよ。

一番偉いのがこの田部サン。

2番目に偉いのが私、佐々門ね。

あとはみんな平ね

ケンゾーはリンと組んで捜査に当たってる

そんで、和三郎はヒルヒルと組んで捜査に当たってね」

「ヒルヒルって?」

「淡島ハルコのことだよ。

蛭子だからヒルヒルね」


蛭子のヒルヒルは、ちょうどコントラバスケースを自分の席の後ろに仕舞い込んでいる最中だった。

よくみると同じコントラバスケースが5個並んでいる。最初観た時には気づかなかったが、ケースには1号、2号とナンバリングされている。ガコンとケースを固定すると、ハルコ=ヒルヒルは、自分の話題が出たことに気づいたのか、こっちを見て、ぺこりとお辞儀をする。ポニーテールがゆるりと揺れる。


「蛭子って?」

「神様から生まれたけど、神様になれなかったやつ。最終的にビールになったけどね」

「ビールになった神様の子供」

「なぜにハルコがヒルヒルなのかはそのうちわかるよ。

まずは2人でセーシューライゲイの調査ね」

「セーシューライゲイって? 新作の青春アニメとか?」


するとスルスルと田部が脚付きホワイトボードを持ってきた。

黒色のペンできゅきゅきゅっと

「聖衆來迎」

と書いて見せた。


「『今昔物語』って知ってるよね? 当時、口伝えで広まった噂話とか昔話を集めた説話集だね。

今風に言ったら、都市伝説とかインターネットミームとか怪談とかにあたるのかね。で、天竺編、震旦編、本朝編の三部構成になってる。天竺編はインド、仏陀偉いとか仏陀すっげえとかの仏教の話がいっぱい載ってる。ほんとはヒンドゥー教のヴィシュヌとかガネーシャとかハヌマーンとかの方が面白いんだけど、仏教ばっかり集めてる。震旦編が中国における仏教説話が中心、ちょっとだけ怪異譚が載ってるけど、絶対そっちの方が面白いのにね。


そんでもって本朝編でいろんな昔話や噂話が載ってる。読経する骸骨の中に生身の舌だけ残ってたとか、芥川龍之介の『鼻』とかの元ネタだったりするよ。そういえば手塚治虫が『鼻』で漫画描いてたな。あれもコミカライズっていうのかね? あと髑髏が歌うやつとかもあったっけ」


「それは『歌い髑髏』だから別だよ

ウサイン・ボルトの歌い髑髏

これは韻が踏めたね。

歌い髑髏って新潟と鹿児島というかけ離れた場所で伝えられてるお話でね。不思議なシンクロニシティだよね。そういえば、食べ物でもあったな。おきゅうとといごねり。エゴネリって海藻を加工した食べ物なんだけど、これは福岡と佐渡なんだよね。不思議だよねえ」

ケンゾーが首をかしげてツッコミを入れる。るるーとリンが同じポーズをする。

リンという名の少女も謎だな、るるーしか言わない。

というかこの子も同僚なのか? 就労規定はどうなっているんだろう?

捜査の説明なのに、なんで今昔物語について教えられているんだ?


「ははは、けげんな顔しているな。捜査の話なのになぜに『今昔物語』か? みたいな顔してるよ」

「みたいな顔じゃなくて、まさにそう思ってるんですが」

和三郎もたまらず声を出した。


うん、うんと頷いて、田部サンは話を続ける。

「本朝編の中に僧侶の死ぬ間際ばかり集めた往生譚ってのがあるんだよ。立派な坊さんが死期を迎えてて、読経と共に命果てるわけだ。そうすると西の方から、壮麗な音楽を演奏しながら御仏の集団がやってきて、死んじゃった坊さんを極楽へ連れて行くんだよ」

「それが『聖衆來迎』だ!」

佐々門姉さんがきめの部分を持って行ったので、田部サンがすごく悔しそうだ。


「その偉い坊さんとか仏が出てくるクセに、響きがエッチくさい、せーしゅーらーげを調べろと。

どうやって? そもそも、そういうのは昔話なんですよね」

和三郎は全く信じていない。だって妖怪退治が仕事ですって言われたのに、妖怪でも何でもないし。仏様集団探すの? 何の罪で、死体盗んでいくから、死体損壊・遺棄等でってことで?

「そうだね、御仏アブダクションって感じで。それこそ詳しくは相方のヒルヒル…じゃないや、淡島クンに聞いてね」


御仏アブダクションって、どこのパンクロックバンドだよ。

「ぱぱあ ままあ 仏教徒~♪」

とか歌うのかよっ!

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