3 和三郎 韻を踏み踏み
淡島クンに案内されたのは、室内中央の会議用の机。パーティションもなく、周囲から見えまくり。よく言えば開放感たっぷりで、ほんとに心許ない。
和三郎は座って待つように言われたので、素直に待っているところ。
最近はほとんどこの椅子に変わったよなあと思うくらい普及している、メッシュチェアに座って待っている。出されたコーヒーをちびりちびり飲みながら待つ事しばし。
ドーナツをテーブル狭しと並べて、コーヒーで乾杯。
「これこそ警官の夢だっ!」
などと言い切っていた黒いスーツの捜査官が出てくるのはなんだったっけ?
程なくしてちょっと疲れた感じの40代のおっさんと、きりりとスーツを着こなすカッコいいお姉さんが現れた。おっさんはほんとにおっさんって感じで、スーツもかなり草臥れている。対照的にお姉さんは、背筋も伸びてほんとにカッコいい。
「どうも田部です。警官の夢云々は『ツインピークス』だよ」
知らぬうちに声に出ていたか? おっさんはにこりとわらって自己紹介した。目は笑ってない。ああ上司あるある。食わせ者だ。
資料室とか、倉庫とかが拠点の部署に必ず食わせ者の上司がいるもんなんだ。なんか恐ろしく強そうな二つ名を持っていると思う。そう決まっている。
和三郎の心の声が聞こえているのかいないのか、判然としない顔で田部が頷く。
「第8課へようこそ。何するところなのかは、そこの女子高校生に……」
カッコいいお姉さんが咳払いをすると、田部サンの声がぼそぼそ、ごにょごにょと小さくなった。基本面倒だからって、淡島クンに押し付けちゃいけないよな。
カッコいいお姉さんがはきはきした声で、横から割り込んだ。
「私はこの田部サンのお守りやってる、佐々門ね。
宜しく。
簡単に言うと
我々の任務は妖怪退治
ね」
お姉さんの声が室内に響く。
「妖怪退治」
ほんとに簡単な説明だな。
「我々のお仕事は妖怪をちょちょいと退治する簡単なお仕事です」
との宣言と共にロクに説明もされずにOJTにぶち込まれる。昔やったサポートセンターのバイトとか、
居酒屋のバイトとか、配線工事のバイトとか、お葬式のバイトとか、みんなOn the Job Trainingだったなああ。カンタンなお仕事。
これがほんとのカンタン刑か。な訳ないよ。ただの連想だよ。
「肝胆寒からしめ」られたら最悪だよー。
と思うと同時に、ああ、やっぱりだとため息が漏れた。
案の定、宍戸錠、エースのジョー。
ダメだなあ。理解が追い付かない。ここまででの自分の抱いた印象は、「やばい部署」だった。
妖怪退治とタイガー・リリー。
妖怪退治一番大事。
想いのままに夏はやっぱり妖怪退治。
妖怪退治いろいろやってみたけどやっぱり。
ああ、考えがまとまらない。整理されない、思い付きの言葉が頭の中を駆け回る。
頭の中の宝の山。
意味もなく韻を踏むインド空軍これは慇懃無礼に意味不明だ。
「えーと、腸内細菌
ですか?」
「妖怪退治と韻を踏んでるね、
和三盆クン」
いつの間に現れたのか、すらりとした青年がにこやかに声をかけてきた。
腕に白いワンピースの少女を抱っこしている。
「僕はケンゾー、このコはリン
よろしくね、和三盆クン」
「いや、そんな甘ったるい名前じゃないです。鈴鹿和三郎です」
俺はそんなに甘党じゃない。
どっちかというとカタカタに焼いた醤油せんべいが好きだ。
頭が少し戻ってきた。まともにものが考えられそうだ。
俺、何かのきっかけで並行宇宙に紛れ込んだか?
並行宇宙五里霧中。
ニーヴン的なすげえ濃霧に巻き込まれたわけでもないしなあ。並行宇宙行ったり来たりマシーンに乗ったわけでもないしねえ。
やっぱり現実なのかねえ。
しかしだなあ、妖怪退治を生業とする警察部署ってなんだ?
あれか、謎の犯罪集団の襲撃受けて、籠城戦を展開する
ジョン・カーペンター大先生の……
「それは『要塞警察』」
田部サンがにんまりつぶやいた。
「え?」
「それとも『スズメバチ』だった?」
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