2 和三郎 甘党だと決めつけられる
「いるる」
「うん、やっぱり気になるよね」
白い壁。オープンスペースな真ん中にモニターが乱立する机が並べられた、オフィス的な場所。暗がりの中でモニターの光を受けて、浮かび上がる人影がある。
青年は机の上のモニターをのぞきながら、机に両手をかけて、ぴょんぴょんと伸び上がり、自分もモニターを見ようとする少女に語りかけた。
「きっとさ、甘党だと思うんだ」
「るる?」
「なまえが和三盆と似てる。
韻を踏んでない?
“ああんおん”と和三郎」
「るー?」
「ちょっと苦しい? うーん、じゃ山ぶどう。
これは韻を踏んでるよ。
ほら、やっぱり甘党だ」
青年は満足そうにうなずいた。
少女は緑色の瞳で訝しそうに青年を見つめた。
「甘党だといいな。仲良くなれそうだ」
青年はにへらと相好を崩した。
少女は青年を見上げながら呆れた感じで腕組みをした。
「張り切ってどうぞ!」
と婦警さんが案内してくれるわけではなかった。
女子高生に案内されたのは、立派な白い部屋だった。
薄暗い資料室じゃなかったので少しほっとした。したんだが、だだっ広いオフィスの奥に、いくつも乱立するあのハンドルがついた大きなグレーの箱って、レール移動式の書架だよな。
ってことはやっぱりここは資料室的な、そういう的な何かなのか?
なんでか女子高校生が同僚にいるという時点で、いやだなあ、こわいなあ、おかしいなあ、なのにさ。
ひげ生やしたおっさんじゃないけど、肩の辺りさすって、球体関節人形の話でもしたくなるよねえ。
あのでっかい書架は、やっぱりああいう的な何かを表しているよね。
しかも入口が尋常じゃなかったのだ。
小泉八雲記念公園の横に区立大久保小学校がある。小学校の校門へ淡島クンがでっかいケースをガラゴロさせながら、先導してくれた。淡島クンはそのまま小学校の敷地内にずんずんと入っていく。
「こっちでいいの?」
「はい」
うなずいた彼女のポニーテールがひゅるんと翻る。
位置としては、小泉八雲終焉の地の真裏になる。
そこに設置されたエレベーターで地下へと降りていく。
ああ、
やっぱり地下なんだなあ。
「……?」
やっぱり普通じゃないのだ。自分は普通じゃない場所に赴任するのだ。もう覚悟を決めるしかないのだろう。
毒を喰らわばサラマンダー。
生半可な判断なんてマザーファッカー。
あ、なんかかっこよく韻を踏めたね。。
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