第4話 挑戦の夜、心の解放

週末の夜、歌声喫茶はいつも以上ににぎわっていた。みつは、いつもの席に座り、周りの人たちの楽しげな会話を耳にしながら、自分も今夜こそはステージに立とうと心に決めていた。


哲治がいつものように店を見回り、みんなに元気よく挨拶をして回る。沙羅は、この夜のために新しい曲を用意していて、その美しい歌声で店内をさらに盛り上げていた。


「今夜は、誰か新しい顔をステージで見られるかな?」哲治がそう言った後、客たちの視線がちらりとみつに向けられた。彼女は緊張で心臓が高鳴りを感じながらも、これが自分の挑戦する時だと感じていた。


深呼吸をして、みつは席から立ち上がり、ゆっくりとステージに向かった。彼女の動きに気付いた店内の人々からは、励ましの拍手が起こった。ステージに着くと、みつは一瞬で世界が静まり返ったように感じた。


「こんばんは。私、みつです。今夜は、初めてですが、歌わせてください。」彼女の声は少し震えていたが、その決意は固かった。ピアノの前に座り、深く息を吸い込むと、みつは演奏を始めた。


彼女が選んだのは、昭和の時代を感じさせる懐かしいメロディ。歌い始めると、緊張でガチガチだった彼女の心が徐々に解きほぐされていくのを感じた。彼女の声は初めて聞く人々の心にも届き、店内には温かな空気が流れ始めた。


歌が終わると、店内からは大きな拍手が沸き起こった。みつは涙があふれそうになりながらも、感謝の気持ちを込めてお辞儀をした。沙羅と哲治も笑顔で彼女を迎え、みつは自分が乗り越えた大きな一歩を実感した。


席に戻ると、老紳士や若いカップル、シングルマザーからも温かい言葉をかけられ、みつは自分がこのコミュニティの一員になったことを改めて感じた。この挑戦が、彼女の心を大きく解放し、新しい自信へとつながった瞬間だった。


その夜は、歌声喫茶で新たなページが開かれた夜となり、みつは音楽を通じて人と深く繋がる喜びを、心から感じ取ったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る