第3話  交わる心、繋がる旋律

数日が過ぎ、みつは歌声喫茶に通うようになっていた。その間に、彼女は沙羅や哲治、さらには他の常連客たちと少しずつ交流を深めていった。ある夜、みつが店に到着すると、哲治がニッコリと微笑んで言った。「今夜は特別なゲストがいますよ。」


店内には既に活気があり、いつものように様々な人々が集まっていた。そして、その夜のハイライトは、地元で愛されている若手ミュージシャンの生演奏だった。彼のギターの音色は心地よく、みつはその音楽に身を任せながら、自分もいつかこうして人前で演奏できたらと思いを馳せた。


演奏が終わると、沙羅がみつの隣に座ってきた。「みつさんも歌ってみない?」と彼女は優しく促した。みつは緊張で顔を赤らめながらも、沙羅の温かい眼差しに心を動かされた。「いつかは…きっと。」と小さな声で答えた。


その後の時間、みつは沙羅や他の客たちと話をする中で、彼らが抱える様々な背景や物語を知ることになる。老紳士はかつて音楽教師であり、若いカップルは音楽を通じて出会ったこと、シングルマザーは子供たちに良い影響を与えたいと願っていた。


みつは、ここに来る人々がそれぞれに理由があり、音楽が彼らの心を癒し、繋ぐ力になっていることを実感した。そして、彼女自身もこの場所と人々が心の安らぎを与えてくれていることに気付き、感謝の気持ちでいっぱいになった。


夜が更け、人々が帰り始めた時、みつは哲治に声をかけられた。「みつさん、いつかここで歌う日が来るといいですね。その時は全力で応援しますよ。」彼の言葉に、みつは深く心を打たれ、はっきりとした決意を胸に秘めた。「はい、必ず歌います。ありがとうございます。」


その夜帰路につくみつの心には、新たな光が灯っていた。歌声喫茶で過ごした時間が、彼女に自信と希望を少しずつ取り戻させ、また人との繋がりの大切さを教えてくれたのだった。そして、みつは自分の心に秘めた旋律を、いつかこのステージで披露する日を夢見ていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る