ささくれ
空山羊
未知との遭遇!お・お・お前は!!
約、半年ほど前に俺は東京でテンプレの如く、人助けをしたところトラックに轢かれた。
気が付いたら俺は四方八方が山に囲まれているコリツ村という小さい村にいた。
「知らない天井だ」なんて、テンプレを呟いたそこは異世界だった。
テンプレの剣と魔法の世界であった。
しかし、コリツ村は平和でのどかな村でモンスターも山から降りてこないし、仮に降りてきても村人たちだけで対処できるほど弱いモンスターばかりだ。
村人も暖かく良い人しかいない。
そんな平和な村が今、大問題に直面している。
それが、新種のモンスターとおぼしき『怪異ササクレ』だ!
このコリツ村から他の村や町へ行くには、村をグルっと囲っている山を越えなくてはいけない。
そんな山の中でも『アマーギ山』という西ルートを越えた先にある、『アマーギ』は巨大でここらへん一体で一番大きな街だ。
村の現金収入はこの『アマーギ』で特産物を売ったりして得ていたし、アマーギから来る行商人から薬や嗜好品などを購入していた。
だが、この半年コリツとアマーギの交易が皆無となってしまった。
原因はアマーギ山を越えようとすると絶対にヤツに遭ってしまうからだ。
ヤツは半年ほど前に急に現れたとのこと。
それはアマーギ山の山頂にいた。
アマーギ山は道中休憩などとれぬほどの険しい山なのだが、山頂だけは唯一台地になっており、険しいアマーギを越えるために、皆そこで必ず休憩をはさむ。
そのため、簡易的だが宿泊できる小屋がある。
問題の新種のモンスターはそこに居ついた。
行商人がやっとの思いで山頂に登りきったところ、山頂がいつもと雰囲気が違う。
あたり一面には凄惨な状況がひろがっており、動物なのかモンスターなのか、はたまた人なのか判別つかぬほどの死体の山が、それこそ死屍累々と高く積まれていたという。
そんな状況に驚き行商人は声をあげてしまった。
すると小屋からソレが出てきたという。
それは、最初4足歩行だった。しかし、行商人を見つけるや否や2足歩行になり猛進してきたとのこと。
そして、口からはナニかであったであろう者の骨がぶら下がっていたという。
ソレは漆黒の毛並みと返り血なのだろうか、どす黒い赤を纏う、まだら模様の出で立ちだったという。
そして、極め付きが『ザザグレ!ザサグレ!!ササクレ!!!ササクレェェェェッ!!!!』と変な叫び声をあげて突進してくることだった。
突然の状況でのモンスターとの会合を果たしてしまった行商人は逃げ、そして足を滑らせ山から転げ落ちた。
重症であったが奇跡的に命が助かり、コリツ村に辿り着き、ことの顛末を村長に伝えた。
村長は村の危機として、すぐさま村でえりすぐりの狩人を集め、ソレの討伐に向かったが、山頂付近で狩人たちが身を潜めていると、嗅覚が異常に発達しているのか、小屋から出てきては『ザザグレ!ザサグレ!!ササクレ!!!ササクレェェェェッ!!!!』と叫ぶとのこと、次の瞬間には狩人たちの方向に走ってくるとのこと。
また、違うときは狩人たちが様子を伺っていると、上空をはぐれワイバーンが旋回していたという。
いくら、はぐれワイバーンが下級の竜種といえ、竜種であるので、ここら界隈では『出会ったら=死』の図式が簡単に浮かんでしまうほどのレベルのモンスターだ。
そんな、はぐれワイバーンが小屋の周りにうず高く積まれている死体の肉に興味があったようだ。
その肉を狙っているところに、小屋からソレが現れ、口にくわえていたナニかの骨をおもむろに手に持つと投擲をした。
狩人も驚くほどのスピードで投擲された骨は、はぐれワイバーンが感知できる速度を越えて突き刺さり一撃でその命を刈り取った。
落ちてきた、ワイバーンを満足そうにキャッチし食べ始めたという。
あまりにも強大な力を目にした狩人たちは、その時戦意を失った。
そうやって、月日がながれ、コリツ村もいよいよキツくなってきた時に、丁度、俺の傷も癒えた。
実は俺、コリツ村に来た時は瀕死だった。
前世?でトラックに轢かれた時の傷がそのままだったのだ。
空から落ちてきた俺はそれこそ、はぐれワイバーンか何かに襲われた挙句、空から落ちてきたと思われていた。
そうして、治癒師や薬師の賢明な看護のお陰で一命を取り留めた。
それと同時に俺にはギフトと呼ばれる強大な力が宿った。
狩人たち曰く、「やれ竜の加護だ、神の加護だなんだ」と言っていたが、この加護のお陰で俺は回復も早かったし、力も強かった。
そんな俺の体調が完全回復したので、俺は村人たちに恩を返す意味でも、ソレの討伐を願い出た。
村長や村人は最初は俺を思って反対してくれたが、俺の覚悟を聞いて最後は納得してくれた。
そして、今俺は山頂に立った。
正直ビビっている。
だって、確かに狩人や行商人が言うように、死屍累々と死体がうず高く積まれている。
恐怖である。
そして、あの叫び声が小屋から聞こえた。
『ザザグレ!ザサグレ!!ササクレ!!!ササクレェェェェッ!!!!』
次の瞬間、小屋の扉が凄い音を立てて開き、血走った眼をした体長3メートル近いソレが現れた。
口からはヨダレを垂れ流し、報告通り骨をしゃぶっている。
ヤベェ怖すぎる!
意をけっして剣を構えると、ソレが何か叫んでいる。
『マデェェェボデダダガウギナァ~ザザグレァ』
何を言っているかわからない。怖い怖すぎる!
でも、ソレは目の前にいるというのに襲ってこない。
ずっと何度も先ほどと同じように何かを叫んでいる。
『マデェェェボデダダガウギナァ~ザザグレァ』
????あれ?もしかして、害意ないのかな?
それでも、剣を構えたまま叫び声に耳を傾けてみた。
『マデェェェボデダダガウギナァ~ザザグレァ』
『マデェボデダダガウギナィザザグレ』
『マデオデタダガウギナイザサグレ』
『マテオレタタカウキナイササクレ』
ん?
『待テ!俺戦ウ気ナイ!ササクレ!』
ん?んん?!
「もしかして、お前『待て!俺戦う気ない!ささくれ!』って言ってるか?」
『ゾウダ!オデズッド言ってる!』
「言葉がわかるのか?わかるなら『三回回ってワン』ってやってくれないか?」
『ナンデ俺ゾンナことしなきゃイケバイ』
「本当に話が通じてるのか確認するためだ!信じてほしいならやれ!」
そういうと、渋々って感じで、ソレは『三回回ってワン』をした。
あっ!こいつ知性あるどころじゃない。
「お前はなんなんだ?」
『オデは元はニンゲンダッダ。ドラッグで人轢いた。後悔ジデダラ女神デデギデ「やり直せ」「人の役に立て」ド言った』
「え?お前もしかして俺を轢き殺したトラックの運転手か!この野郎!死ぬところだったぞ!!」
『オバエがあの時ノ!!ボンドウニ済まなガッタ!ゴノ通りだ!』
怪物が涙を流しながら俺に土下座をはじめた。
ここまで来ると怒りも通り越した。
ってか、そもそもトラックの運転手は悪くない。
この人?は青信号を走っていたところに多分、自殺なのかな?女性が飛び込んでいっただけだから。
それを俺が助けたところで俺が轢かれただけだ。
だから、この人?は悪くない。だから、許そう。
でも、そうなってくるとまずはこの死体の山について聞かなきゃいけない。
「おい!お前が元人間だっていうなら、この死体の山はなんなんだ?モンスターになって人を襲うようになったのか?」
『オデは1人も殺ジデナイ。ゴレは全部モンスターだ!アゾゴから湧いてくる!』
ソレが指をさした先には小さい洞窟があり、そこからモンスターが湧いているようだった。
後日調査が入ったのだが、天然のダンジョンだそうだ。
要はコイツはダンジョンから溢れてくるモンスターを狩り喰らっていたとのこと。
そして俺は聞いた。
「お前ザザグレササクレって言ってるけど、それはどう説明つけるんだ?」
意外な答えが返ってきた。
『オデ。パンダなんだ。笹喰いたい。だから、ずっとササクレ!ササクレ!ってニンゲンにお願いジデタ。』
「え?パンダなの?え?『ササクレ』って『笹くれ』なの?」
『ゾウダ!パンダだ!笹くれ!!笹がナイト俺イライラする!!ダガラズット骨しゃぶってダ!!』
「あ~そうなんだ・・・」
そうして、コリツ村とアマーギ街を巻き込んだ大騒動である通称『アマーギ越えの叫び』は終結した。
ちなみに、コイツはあのあと風呂に入れたら返り血が全部きれいに落ちて、俺が知ってるパンダになった。
見た目も愛くるしく強くダンジョンのモンスター達も狩ってくれるとのことで、コリツ村やアマーギ街、ひいては近隣の町から神格化され、『クレクレ』という名前まで付けられた。
ちなみに東に位置する『ヒガシデ山』で取れる笹を定期的に奉納されることになったので、禁断症状はでなくなった。
パンダ可愛いね。でも、熊だから強いもんね♪
完
ささくれ 空山羊 @zannyou
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