「Overdue」

 毎日の生活が退屈だったので死んでみた。


 どうやって死んだのかはあんまり覚えてない。確かどこかから飛び降りたんだったと思う。そうだ、高いビルから飛び降りて、ガラス張りのビルの表面に落ちていく自分が見えたのを覚えてる。通夜や葬式では、意外と泣いている人間が多くて驚いた。


 今の僕は空中を歩くこともできるし物をすり抜けることもできる。お腹は空かないし眠くもならない。テレビも見れるし人の生活を覗くこともできる。それなりに楽しい毎日だ。


 僕は何かを探している。どうやらそれがないとジョウブツできないらしい。


 でもどんなものだか見当もつかない物を探し回ってまでジョウブツする必要があるのか? めんどくさい。何であろうと、どーでもいい。


 だけど僕は一ヶ月くらいで今の生活には飽きてしまった。

 クラスメートや予備校の先生のセックスシーンにも飽きたし、絶対百まで死なないだろうと思っていた親父は僕の死のショックで死んだ。


 しょうがないから僕はジョウブツのための何かを探すことにした。


 僕が生まれた病院。

 生まれてから死ぬまで住んでいた家。

 幼稚園と小学校と中学校と高校。

 旅行で行った伊豆と会津。

 修学旅行で行った京都と東京。


 僕という人間に関わってそうな場所にはみんな行った。行って、何かを探した。当時のことを思い出したりもしたけど、別に何とも思わなかった。

 よく思い出せなかったし。


 そんなことをしているうちに一年が経ってしまった。


 僕と親父の一周忌は、静かに行われた。僕の葬式に来た友達はみんな受験で僕なんか思い出す暇もないみたいだ。



 久しぶりに僕は自分の部屋に戻ってみた。

 お母さんは僕の部屋に何の手もつけていない。そのまんまだ。勉強机に座って、ふと右側を向いてみた。

 そこの壁には鏡が掛けてあって、鏡には誰も座っていない椅子と、その向こうのタンスが映っていた。


 わかったぞ。


 僕は、もうこの世にいないんだ。

 そんなことに気づかなかったんだ。

 僕は死を勘違いしていた。

 そうか、わかった。わかったよ。


 最後に、母さんが部屋をノックする音が聞こえた気が、した。

                                (了)



□■□


 解説:これは僕が15歳の時の作品で、当時の小説の師匠に『課題』を出されて、それに乗っ取って書いたものです。

 僕の記憶が正しければ「1000字以内に起承転結をおさめる」というものでしたが、今読み直すとよう分からへん感じですな。

 なお、タイトル「Overdue」は、「期日を過ぎた/未払いの/延滞した」という意味ですが、単純に大好きな曲のタイトルから取っただけという説も有効です。


                     


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