「流るるもの」
人間が持ちうる最も偉大で最も厄介で最も力強く最も脆いものを仮に感情と呼ぶのであれば、それらは秒速は愚か音速以上のスピードで変化していく、ある種の「川」であると、ぼくは考える。上流からやって来た感情はその川の感情観測地点でほんの一瞬認知され、そのまま忘却の海へと流れてゆく。無論、人間の頭なり心なりマインドなりメンタルなりに無意識なりには、その感情はきちんと記録され、後に想起して微笑んだり歯ぎしりをすることとなるが、感情の川はその個体が生き続ける限り枯渇することはない。
昔、レディオヘッドのトム・ヨークは、「感情は流れていくものだから、3分や5分間の曲で同じ感情について歌うなんてナンセンスだよ」といった旨の発言をしていたが、それはやはり、少なくともぼくにとっては、「川」なのだと頷いたものだ。
ぼくは光を求めてここまで足を止めずに歩き続けてきたような、そんな比喩でしか表せないが、とにかく『ガイディング・ライト』を追ってきたような気がしている。している? いや、ぼくはずっと光を追いかけ続けていたのだ。母の胎内から脱出するよりもっと前、受精の瞬間から、ずっと。
別段現状に闇を感じていたりこれまでの人生の明るさや彩度が低いとは言わないが、ぼくはいつも、いつもいつも、光を追っていた。その光源が何なのか、光が何を意味するのか、仮に追いついた時自分がどうなってしまうのか、そんなことを考える余地もなく、ひたすらに求め、全く縮まらない距離に落涙すらしながら、それでも足を止めることはできなかった。まるで泳ぐことを止めたら死んでしまう生物のように。
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