3日目
私は誰かといるときの温もりを知った。でも感覚は霜焼けのようで、温かいはずなのに私をつんざいた。苦しくなる。
「じゃあ今日から一つだけ質問しますね。」
これは昨日取り決めた約束で私がここにいることを条件に陽さんのことを教えてくれるというものだ。
「お、おう。流石になんでもじゃないけど一つだけな。」
最初はこれと決めていたものがある。寝る前に考えたこの質問。私はニヤリと心の中でし、
「じゃあ好きな食べ物は?」
と聞いた。
「そんなんでいいのか!?」
ツッコまれた。そりゃそうだ。あと何日ここに一緒にいられるかわからないのに普遍的すぎる。でも私はこういう他愛もないことが聞きたかった。
「いいから、答えてください。」
「んーいきなり言われると…。でもあえて言うならカレーかな。昔母親が作ってくれたやつ。」
母親思いの素敵な人だと思った。
「その話聞いてるだけでもきっと、素敵なお母さんなんですね。」
「…そうだったらな」
「え?」
昨日から引っかかっていたが陽さんは家族の話をすると少し淀む言い方をする。本当は聞きたい、私が好きな人の力になりたい。でも深入りしすぎだなと思い、流石に聞けない。あと何日一緒にいられるのだろうか。ふと寂しさがよぎってしまう。
「ん?」
「いやなんでもないです。あ、そうだ。私にも聞きたいことがあったら聞いていいんですよ?」
「じゃあ…なんで俺が…いや、その…」
「なんですか?」
「いややっぱりなんでもない。じゃあお前の好きな食べ物は?」
何を聞きたかったのかはわからないが少しだけ陽さんと打ち解けられた気がして嬉しかった。
「唐揚げです!」
「急に威勢がいいな…」
「唐揚げは唯一私のことをわかってくれる存在なんです!辛い時も悲しい時も楽しい時もいつでも変わらない美味しさじゃないですか!」
あ、引かれたかもとちょっと落ち込む。
「そんなに好きなんだな」
クスッと陽さんが笑った。そんなずるい顔に私はいとも簡単に心臓をグッと掴まれてしまう。やっぱりこの痛みは恋なのかもしれない。
つられて私も笑う。誰かと笑うことがこんなにも温かくて楽しいことなんだと思い出した。そしてそれが好きな人であるならば尚更。
「陽さんそんな顔するんですね。出会った時は切迫していて怖い顔してたけど。」
「お前こそ会った時は下を向いて仏頂面だったくせに。」
確かに、陽さんと暮らしてからは何故だか楽しくていつも心臓がはしゃいで自然と頬が上がっていた。
楽しい、好き、でも。
「そんなこと言うとここから出たくなくなっちゃいますよ。」
いつかはここを出て陽さんと離れ離れ。恋をしない方が楽だった。
「…いていいのに」
陽さんは何か小声で言ったが私には聞こえなかった。
「何か言いました?」
「いやなにも。お前はここに囚われの身だからな。明日も大人しくしてろよ?」
やっぱり威厳のない脅迫だ。
「はい、好きなのでここにいます。」
そしてやっぱり変なことを言ってしまう。
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