2日目

私は人に対するときめきを知った。でも曲がった愛だと思う。人は普通テレビを見ながら殺人犯に恋をしない。つまり私は普通じゃない、異常だ。


そしてその私は今軟禁されている、一目惚れした人に。でも不自由じゃなかった。意外となんでもさせてくれたし、なんでも出てきた。ここから出ること以外。しかしやることはなかったのでバッグに入っていたノートに日記をつけることにした。この家に来て2日目、この人と出会って2日目になった。


「そういえばお前、なんて言うんだ?名前」


なぜか言った気になっていて忘れていた。


「花咲夏世です。夏に世の中の世です。かわせようの漢字も教えてください。」


この瞬間、我ながらいいことを思いついた。この密室をいるための条件を。あとで出そうと思う。


「川瀬陽。陽は太陽の陽な。」


なんて素敵な名前だ。まるで私の陽だまりのような存在に…


「俺はこの名前が嫌いだ。」


あれ。


「どうしてですか?私は好きですよ。」


好きなのはあなたの全てですが。


「俺はこの名前みたいに明るくない。それに…」


「それに?」


「なんでもない。お前には関係ない。ってか早く食えよ。」


そうだった、今は夕飯でこの時間には慣れないコンビニの菓子パンだ。陽さんといる時間は溶けるみたいで恋とは盲目だ。


「どうせここに閉じ込められてるんですからそんなに急かさなくても。あそうだ。あの、条件を出してもいいですか?」


「条件?」


「そうですここに閉じ込めているんですから私の条件も聞いてください。」


満を持してこれを出す時がきた。


「まぁ少しくらいなら聞いてやらなくもない。」


「なら…もっと、あなたのこと、陽さんのことが知りたいです。」


こんなことを言っておいて、少し重いかもしれないな…と後悔。


「…その、なんというか!…お、俺は殺人犯だぞ!知りすぎたら殺すかもしれないんだぞ!」


なんでこの人捕まらないんだろう。こんなおどおどして気弱そうで情報が流れている人。もっと強めに否定して来るかと思った。


「別に心配してくれる人なんてそうそういないですし、それにあなたにだったら殺されてもいいです。」


また私の悪い癖。ちゃんと考えてから言葉にするようにしないと。


「お、おう?そう、か。…ならここが見つからないまでは教えてやる。そうだな…じゃあこうしよう。一日一つ俺のことを教えてやる。お前俺のことをその…好いて…いるんだろ?なら俺に協力しろ。」


今の感じちょっと、脅してくる犯人感あった気がする。まだ会って2日目だけど。


「わかりました。ここにいます。その代わりちゃんと答えてくださいね?」


陽さんは仕方なさそうに頷き、晴れて条件成立(?)となった。私は陽さんのことを知りたい、陽さんはここに立て篭もり私を人質にとりたい。明らかに異常だ。でも元々この時間が動き始めたあの瞬間から異常なのだから、私たちにとってはこれが普通になっていくのだ。そもそも周りと比べて普通だと言うのはなんだかおかしい世の中だと思う。だからこれでいい。これがいい。


この日記を書いていたら月はもうあんなに高くていつもの寝る時間だ。布団はないので床に寝転がり今日を閉じようと思う。これは私の普通の日記であり、陽さんとの異常な日々を書き留める秘密の文書だ。見られないようにしなければ。


恋とは盲目だ。一目惚れしてからずっとこれを繰り返していた。


「陽さん、おやすみなさい。」


「…さっさと寝ろ。」


今はこれが言い合えるだけで幸せだ。

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