第22話 夜の魔女 Ⅲ
ライラの
頭部には巨大な口があり、広く、尖った歯が見える。複数の触手が絡み付いた胴体は丸く、合計八本もの脚には鋭い爪が付いている。
身体をぶるぶると震わせ、四方八方に黒い粘液を吐き出す。
降り注ぐ粘液をひらひらと
「ひっ……!」
アリスは思わず顏を引きつらせる。この粘液に触れたら、人間の身体はどうなるのだろうか。
「こんな特殊な攻撃してくる
「
(何処から仕掛けてくるか解らない……!)
再び叫声を上げると、アリスの下半身目掛けて粘液を吐き出す。
「ひゃあっ……!」
咄嗟に身体をひねる。間一髪で避けるが、スカートと
(……落ち着け。何とかして近づいて、奴の胴体を貫かないと……)
木の上から攻撃されては、手が出せない。とりあえず、八本の脚をどうにかしなければ。
次に
「今!」
伸びた脚を、斬りつける。
ギィアアアアアアア!
耳障りな声が響く。脚は切れたまま、再生はしない。
(地道だけど、一本ずつ、斬っていくしかない……!)
周りの木に穴が空く。恐ろしい光景を目の当たりにしても、冷静さを保ち続ける。
アリスは舞い踊るように、
(あと一本……!)
そう思った、刹那——
ぱちぱちと手を打つ音が夜闇に響き渡る。
思わず振り返ると、そこにいたのは先程の、赤髪の
「すごーい! お嬢さん、強いのね!」
憧れの存在を目にしたかのように、キラキラと輝く瞳でアリスを見る。
「久しぶりに見た! 天使と
呆気にとられるアリス。何故、
「お嬢さんは何しに来たの? もしかして私に会いに来てくれたの? 嬉しい!」
「嬉しいなあ、この嬉しさをどう表現しよう!」
「何を……」
疑問をぶつけようとしたが、言葉が出てこない。
ライラは自身を抱きしめるようにしながら、嬉しそうに口にする。
「……せっかく会いにきてくれたのだから、期待に応えないとね!」
そう言うとライラは、こほん、と咳払いをし——歌い始める。
「歌……?」
アリスは困惑したが、透明な声に心が奪われる。
聞く者の心を浄化するような、美しい歌。
ライラの歌は心に直接響くようで、時間が止まったように感じる。
「アリス!」
エクスの声が聞こえて我に返る。
見ると、先程まで戦っていた
切り落とした脚が再生し——先ほどよりも、禍々しい姿へと変貌する。
「何で……⁉」
アリスは後退る。
「
ライラの歌を受けて、先ほどよりも
迫りくる脚を受け止め、防戦一方となるアリス。
「これお手本な。本当は天使も歌で強化されて戦うんだ」
「そんなこと言っている場合じゃないでしょ!」
しかし、剣が通らない。先ほどよりも触手が強く絡み合っている。
(どうすれば……!)
追撃される。身を起こそうとしたが、間に合わない。
だが、次の瞬間——
その場で藻掻き、叫び声を上げると、木々を掻き分け逃げていく。
アリスは何が起きたのか解らず、ただ呆然とする。
「あれあれ? どこいっちゃうの?」
ライラが歌うのを止める。
辺りに静寂が漂う。しばらくして——
「ライラ」
と、聞き覚えのある、低い声がする。
ライラは声の主へと文句を言う。
「もう、
歩く音が近づいてくる。
黒い
何故。彼が、ここに——
「騎士……様……?」
動揺するアリスに、黒騎士はいつもの調子で答えた。
「おはよう、アリー。いい夜だな」
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