第9話 格差を知る

ある日、母と一緒に大型商業施設に行き、ヘアアクセサリー売り場を見ている時、女の子用の可愛い飾りが付いたヘアゴムが陳列されている什器がありました。


什器まるまる一台分が女の子用のヘアゴムが陳列されていて、私は目を輝かせながら並んでいるヘアゴムを見つめていました。


当時私が持っていたのは水玉模様の玉がついたヘアゴムただひとつだけでした。


1個くらいなら買ってもらえるのではないかと考えた私は、母に「1個だけでも良いから買って。」とお願いしました。


しかし母は「ダメ。」と言います。


「ねぇお願い。1個だけで良いから…。」


「ダメだって。」


私は何度かお願いしてみましたがやはりダメ。


私は諦めきれず、しばらくその場に立ち尽くしていました。


すると、どこからともなく別の母娘がやってきました。


その母親は、私が見ているアクセサリーの陳列什器を数秒間ジーーーーーーーーーっと無言で見つめ、「よし。全部1個ずつ買おう!」と言った後、上の端から下の端まで本当に全部の商品を1個ずつカゴに入れていきました。


娘は一言も「買ってほしい。」とは言っていないのにです。


全部の商品をカゴの中に入れ終ると、その母娘はレジへと向かって去って行きました。


私はそのような買い物の仕方を見るのが生まれて初めてで、呆然としながら見ていました。


1個も買ってもらえない私と、買ってほしいと頼んでもいないのに全てのヘアゴムを手に入れる事ができた見知らぬ女の子…。


私はこの時、世の中は不平等にできているのだと悟ったのです。


そして、この衝撃的な買い物の仕方を目の当たりにした私は、『全商品を買う』という行為への憧れを募らせていったのでした…。

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