第6話 私を黙らせる呪いの言葉

筆箱の件も裁縫セットの件も、どちらも私が欲しい物を買ってもらう事ができませんでしたが、私は「絶対にこっちが良い!!」と母に強く主張する事はできませんでした。


私はいつも、かなり早い段階で“自分が欲しい物は買ってもらえないんだ…”と諦めていました。


なぜかというと、母は“この言葉を言えば、この子は絶対にすぐに諦めて黙る”という究極の一言を知っていたからです。


母にその言葉を言われてしまうと、もう「こっちが欲しい!」と主張する事ができなくなってしまいます。


では、その言葉とはどんな言葉なのか…。


それは『そんな事を言うなら買ってやらないよ!』…です。


つまり“それ以上言うと、お母さんが買ってあげると言っていた方でさえ買ってあげないよ。”という事です。


子供が親にこれを言われてしまっては、もう何も言えません。


これ以上「こっちの方が良い!こっちを買って!」と言ってしまったら、必要な物なのに用意する事ができなくなってしまうのです。


そうなると相当困ってしまいます…。


これはもはや、「こっちが欲しい。」という主張ができないように言葉を封じてしまう『呪いの言葉』なのです。


私はこの言葉を言われる度に、“買ってもらえなくなって用意できなかったら困る…。”と思い、一瞬にして黙ってしまっていたのです。


母はこの言葉の効果が強く即効性もある事に気付いていたようで、私が「こっちが欲しい。」という主張をする度に、すかさずこの言葉をドヤ顔で言っていたのでした。


「なにがなんでもこっちが欲しい!」と強く主張する事ができなかった私は、今でも時々無念の気持ちがふいに甦ってくるのです。


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