第7話
おいおい死んだわ、俺。
と、そんな事を考えている場合ではない。俺の目の前にはお怒りのシャルロットに、シャルロットの黒い力を見て臨戦態勢を取っているサクラ。
俺を間に挟んで、二人の視線はぶつかり合っている。もちろん、俺は両方の視線の間にいるため、足が竦んで動くことが出来ない。折角サクラのデバフが解けたのに……。
「ねぇ?ザック。ダメって言わなかったっけ〜?私以外の女と仲良くしたらさぁ」
聞いてるけど、それを守るのは難しいというか、なんというか。
「ふぅ~ん?ホントにいいのかなぁ?私の言いつけを守れないなら監禁しちゃうよ?」
怖っ。目が怖いよシャルロット。ハイライトの抜けた仄暗い瞳が俺をしっかりと捉えている。しかし、気の所為だろうか。シャルロットの表情が何故か恍惚としているような気がするのは……。
「はぁ……。やっぱり監禁だね。従順なペットになるまで躾てあげる♪」
ズッと俺の背後に黒い力を行使して、俺を連れ去ろうとするシャルロット。見えていても、俺には反応出来ないスピードだ。
しかし、シャルロットの黒い力は防がれる。誰の力か何て言うまでもない。俺の後ろに立っているサクラが、警戒心を剥き出しにしてシャルロットを睨んでいる。
「君のその力……。お伽噺の」
「うーんと、貴女は必要ないからなぁ……。殺しちゃっていいかな?」
シャルロットのニコッと微笑んだ顔からは、想像がつかないほどの物騒な言葉が出てきた。その言葉を聞いて完全にサクラも敵と見たらしい。
シャルロットは強いが、対するのは学園で2番目の実力者だ。如何に今のシャルロットといえど苦戦を強いられるだろう。
「ふふっ……、そのつもりで来てくれ。私は手加減が苦手なんだっ!」
言い終えると同時。地を蹴ったサクラが一瞬にしてシャルロットの背後に現れる。そして、どこからか呼び出した刀で背中への横薙ぎの一閃を繰り出しながら、その時にはすでに次の技の構えに入っている。
サクラの戦闘スタイルはとにかく連撃。その剣先に乱れや迷いは一切なく、ただそこに在るものを斬っていく。息をつく暇を与えず、僅か数秒で敵を屠るという。
そんなサクラの動きが初撃にして止まる。
否、止められた。
「なっ!?」
サクラの連撃は速いだけじゃない。とてつもなく重いのだ。速く、重い。そこにエネルギーを付与することでありとあらゆるステータスを底上げし、圧倒的なまでの力で叩きのめす。
俺はそれならば、シャルロットにも通用すると思っていた。しかし……。
「そこで大人しくしててね?羽虫さん」
サクラはシャルロットの黒い力によって拘束されてしまった。
拘束したサクラに視線を向けることなく、優雅に俺の方へと歩いてくるシャルロット。
「ザックは私のモノなのに、何で他の女と仲良くするの?」
「してない」
「嘘もつくんだ?他の女と仲良くしただけじゃ飽き足らず、私に嘘を……。アハッ。そんなに虐められて、グチャグチャにして欲しいんだ?」
まだ、入学試験だというのにシャルロットのソレはラスボスのときと同じか、それ以上に膨れ上がっている。
興奮と怒りで普段よりも出力に抑えが効いていないのだろう。
俺の一歩前まで来たシャルロットは、フフッと不気味に微笑み俺の頬に手を伸ばす。
「じゃあ、悪い子は仕舞っちゃおうね」
ズズ
俺は全く反応出来ず、シャルロットの黒い力の中に飲み込まれていった。
サクラ視点
なんだ?今のは……。
目の前に立っていた、ザック君が先の黒い力に飲み込まれる。それを眺め終わり恍惚とした表情を浮かべながら、その女生徒はこちらに軽やかな足取りで戻ってくる。
「ありがと♪」
耳元でそう告げられ、彼女が何処かへ去っていくのを呆然と眺めることしか出来ない。
そして、彼女の背が見えなくなってから5秒程経ってから拘束が解かれた。
あの生徒……。
私が手も足も出ないほどの実力者。そんな人物が今まで誰にも知られずに生活してこれていた?
あれだけの力を持っていて、誰からも目を付けられていないなんてことは、あり得ない。
でも、国内にいるなら学園長が気付くはず。となると、他国からやって来たのだろう。
それと気になるのはザック君だ。赤龍を倒したとされている彼が、あんなに一方的に連れ去られるだろうか。赤龍を単騎で討伐したというのが事実なら彼は必然と私よりも強いことになる。にも関わらず、彼女の力に一切反応出来ていなかった。
つまり……。
赤龍を単騎で討伐したのは、彼女のほう?
これは徹底的に調べる必要がありそう。
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