第6話
入学試験当日。
俺はシャルロットと共に学園に来ていた。シャルロットは制服で、俺は私服だ。俺は推薦枠のため、制服は今から受け取りに行く必要がある。シャルロットに先に受付してくるように言って、俺は置いてある看板と渡されていた案内用紙に従って部屋に向かう。
そこは小さな更衣室で、わかりやすく入口から見えるロッカーの中に制服が掛けてある。自分の制服の本物を着るのは初めてだが、シャルロットが作ったのを、着たことがあるせいか新鮮味は感じられなかった。あと、作ってくれた人には悪いけど、シャルロットが作った制服のほうが着心地が良かった。
制服を着て受付に戻ってくると、シャルロットがこちらに手を降っている。周りから視線が突き刺さるのを感じながら、シャルロットに寄る。
「どうしたんだよ?」
「すぐにわかったでしょ?」
「そうだね。でも、シャルは目立つから今後はやめようねぇ」
「嫌☆」
残念だなぁ。首を縦に振ってくれたらご褒美に頭を撫でてあげようと思ったのになぁ……。
「後出しはズルじゃない?」
「全然」
シャルロットと会話をしていると、試験官の案内が聞こえてきた。それに従って試験会場の一つに入り、試験の説明を聞く。
試験は全部で三つ。
筆記試験、実技試験、実戦試験だ。
筆記試験は、魔法やエネルギーなどの基本的な知識に加えて、魔法の応用や接近戦における対処法など、様々な問題が出題される。
次の実技試験では、魔法使いは事前に得意な魔法、剣士であれば流派を伝えて試験を行う。どちらとも、試験の初めにエネルギー総量の測定がある。
剣士の試験では魔法で強化された人形に、一撃で与えられるダメージを測定される。魔法使いの試験では、魔法で強化された的を好きな低位魔法で攻撃し、魔法の練度、構築までの時間、エネルギー消費量を測定される。
最後に実践試験。これはとてもシンプルな試験で試験官と戦闘するだけである。
ゲームでは最序盤となる、この入学試験。主人公はルートによって様々ではあるが、大体はここで試験官を驚かせることを披露していた。
そして俺も主人公の例に漏れず、この最序盤で試験官たちを驚かせる結果を見せることになるかもしれない。学園初の不合格者という結果を……。
そんな呑気なことを考えているけど、結構なピンチだ。まず、この段階で使えるバグ技は壁抜けくらいしかない。そして何よりも、俺の冒険者としての功績が全て嘘だとバレることになる。
とはいえ、事前にこうなる事はわかっていたので策はあった。あったのだ。説明のときにある試験官を見るまでは……。
今回の試験官に、本来ならもう少し進んでから登場するはずのサクラというキャラが何故かいるせいで策が使えなくなった。
サクラは若くして、王国でもTOP10に入るほどの実力者であり、学園長を除けば学園最強の存在である。
ゲームでは黒髪のポニーテールに整った顔立ちのイケメンお姉さん系のキャラだ。、大体何でもできるけど料理はポンコツ、しっかりものかと思ったら案外甘えたがり、みたいなギャップで人気があったキャラだ。もちろん攻略可能。
で、そのTOP10様がここにいるということは恐らく……いや、確実にバレるのだ。俺の杜撰な策では。うーん、どうしたものか〜。
「お、君か」
「うーーん」
「何だ?君に不安なことでもあるのか?」
「はい。試験に落るかもと思うと不安で不安で」
「はっ?………あ、いや、すまない。そうだな、慣れないことで不安はあるだろう。しかし、君ほどの実力者が………?」
「………?」
あれ?俺今誰と話して………!?
「サ、サササ、サクラ教官!?」
「今気付いたのか?」
「す、すすすす、すみません。ぶ、無礼な真似をしてしまい……」
俺は全力で頭を下げる。この場で関係を悪化させたら、試験に落ちたときに教師として学園に関わることすら出来なくなる。それだけはぁぁぁ。
「頭を上げろ。無礼などと思ってはいない。君はあの“赤龍”を単騎で討伐している。私よりも実力は上だろう……ん?」
そんなことはないと否定しようと顔を上げると、ジッとこちらを凝視しているサクラと目があった。途端に俺は動けなくなる感じを味わった。
これ、は……サクラの魔法か。
やばい。
やばいやばいやばいやばいやばい。
この魔法は自身と相手の力量差を図るサクラのオリジナル魔法だ。似たような魔法はいくつもあるが、サクラの魔法は自身の方が相手よりも強かった場合、相手に無条件で拘束のデバフを付与するのだ。
つまりどういうことかというと、
試験前に嘘がバレたってことだ。
はい、おしまい。
「ふむ」
俺の力量を図り終えた魔法が解ける。しかし、俺は動けない。このデバフはお互いの力の差によって継続する時間が変化する。
俺とサクラでは天と地以上の力量差があるので、丸1日動けない可能性だってある。
その場合って不合格になるのかな?
なるよな。きっと……。
「妙だな……」
ふむ、ふん、うーん、と何度も唸ったり頷いたりサクラが慌ただしく動きながら、何かを考えている。
俺は動けない。
「君は今、私の魔法で拘束されている。にも関わらず、あの“赤龍”を倒したのか?……力に制限でも掛かっているのか?……いや、それにしてもだな」
ぶつぶつと何かを呟きながら、ウロウロと歩き回るサクラ。動けない俺は視線だけで、サクラの動きを見ている。
「うーーーーーーーーん」
ひときわ長い呻きがサクラから漏れると同時、俺の拘束が解けた。サクラは目を見開いて俺の背後を見ている。俺はギッギッと音がなりそうな動きで後ろを向く。
「ザック……このオンナは何?」
シャルロットがお怒りだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます