第5話

 ここまでが過去回想。


 そして今現在、俺はシャルロットの黒い力によってベットに拘束されている。全く身に覚えのないことだが、罪状は浮気だそうだ。


 「ねぇ、ザック?ダメじゃない、私以外を見るなんて」


 俺に覆いかぶさるようにして、シャルロットが詰め寄ってくる。今日までで三度目の拘束だ。もちろん言い訳は通じないので正直な気持ちだけを話す。


 「学園の制服だったんだ、俺……[学園に憧れがあって]」


 「ふふ、嘘ついたね?」


 「違っ!?」


 「ダメって言ったよ?私に嘘つくの」


 やりやがったな、シャルロットめ。正直なことを言おうとしたが、思考とは真逆に口は嘘を吐いていた。最近シャルロットが、俺に罰を与えたいがためだけに編み出した力の使い方の一つだ。


 俺は彼女に抵抗する術を持ってないので、毎回為すがままにされている。どうにかして、やり返そうと最初は意気込んでいたが、今ではもう毛ほどもそんな気持ちが湧かない。


 「いい子だねぇ、逆らっても適わないもんね」


 「そうだよ。もう好きしろ」


 「ふふ。学園は私と一緒に行こうね」


 「ああ、それでいいよ」


 「うん。あ、でも浮気はダメだよ?」


 「わかってる」


 別に付き合っているわけじゃないが、それはもう当人間でしか通じない言い訳になってしまった。完全な同棲にくわえ、俺の隣には常にシャルロットがいるのが当たり前になった。


 畑仕事には付いてくるし、最近シャルロットの許可を経て始めた冒険者業にも、シャルロットは付いてくる。しかも、そのせいで俺が冒険者になってから挙げた功績は途轍もないことになっている。


 ‘‘ゴブリンの軍勢千匹余りの単独殲滅、王都で八人目となる赤龍の単独討伐”など。


 もはや英雄のような扱いを受けているが、この功績は全てシャルロットのものだ。俺は討伐後の素材集めにすら手を出させてもらえない。


 わずか一週間で、シャルロットの黒い力の使い方はそれほどの域に達した。もう俺が教えられる事は何もなく、ここから先の彼女の力の発展はもう未知数だ。


 「もう、また考え事してる」


 「それくらい許してくれ」


 「ダーメ、私は怒ってるんだよ?」


 「俺は事実を話そうとした。だけど誰かさんに歪めれたんだよ」


 「むう。それはそうだけど」


 ぷくっと頬を膨らませて拗ねている。今みたいに俺の前では表情はコロコロ変わるが、誰かが部屋のドアをノックした瞬間、その表情は消える。


 シャルロットは白いエネルギーを取り戻すことを諦めたとき同時に、俺以外の人に対する感情の向けかたも、大きく変わったように見える。今までは張り付けた笑みが最低限あったはずなんだけど、それすら知らぬ間に消えていた。


 そんな状態で学園で上手くやっていけるのか、それだけが酷く心配だった。


 


 「どう?似合ってる?」


 「そりゃもちろん」


 「えへへ。ザックに褒めて貰えるのはやっぱり嬉しいな」


 「毎日のように褒めてる思うけど……」


 今日は、シャルロットが勝手に決めた 互いの制服姿を見せあう日になっている。

 


 そろそろ入学の準備する必要が出てきた時期に、彼女の部屋に職人がきて寸法を測り、後日制服が届けられるという如何にも金持ちらしいことをしていた。その制服が今日の昼頃に届いたらしい。


 因みに入学試験があるのに事前に制服を買う理由は、試験で落ちる人などいないからだ。試験はクラス分けに使う指標のためにしているに過ぎない。もちろん、退学制度はあるものの入学に関してはそこまで厳しくない。

 では何故試験対策をするのかというと、上位クラスに行くほど、貴族とパイプ持てたり、扱える魔法の階級が上位になったり、特化クラスという専門的なことを出来るクラスがあるなどメリットが多いからだ。


 ま、俺は入学試験参加さえ怪しかったんだがな。そう思うとシャルロットには世話を掛けてばかりな気がする。結果的に推薦が貰えたのもシャルロットのお陰だし。というか推薦の人って制服後渡しだったよな?


 「なぁ、俺の制服ってさ。今ないよな?」


 「ザックは推薦枠だから、制服は本来学校で貰えるからね。でも、それじゃあ不公平じゃない?だから、作ったみたの。これで」


 ズッといつものように黒い力を顕現するシャルロット。なるほどね、もう何でもありになってきたな、その力。


 ゲーム知識で俺tueeするはずが、これではシャルロットtueeeeである。ま、仕方ない。一つのルートのラスボス様が更に強くなったとなれば、幾ら知識があったところで勝てまい。


 「あ、ちゃんと声に出して褒めてよぉ」


 「コラ。読心するな」


 「じゃあ声に出して?」


 「……シャルのお陰で俺は幸せですよ」


 「ん~!染み渡る誉め言葉」


 さすがに半年近く一緒にいると、シャルロットの扱い方もある程度わかってくるものだ。


 とにかく褒めて欲しがりだから、毎日一回褒めると機嫌がいい事が多い。反対に褒めなかったり、俺が少しでも女性に目を向けると、急に機嫌が悪くなり、それはそれは怖いお仕置きをされる。

 

 と、それは置いといて、シャルロットが作った制服に袖を通す。不公平だと言われたけど、俺の制服姿に需要を感じているのはシャルロットくらいだろうな。


 「にっあうねぇ。カッコいいよ、ザック」


 「それはどうも」


 「冷たいなぁ、昔はもっと優しかったよ?」


 「時が経てば人は変わるんだよ」


 「そうかな?でも、今も昔も変わらずカッコいいよ?俺が一緒にいてやるって、言ってくれたときは胸がキュンってしたもん」


 「……」


 「ふふ。今ここで言ってくれない?」


 「[俺がずっと一緒に]—————」


 「あ、マリオネットが……。もう、どうやって抵抗したの?」


 「言ったら対策されるから言わない」


 発動の有無は確認できないが、これだけは唯一抵抗出来るようになった、というか抵抗しないと好き勝手される。だから、意地だけでどうにか抵抗している。


 「ふーん?」


 「言わないぞ」


 「残念」


 プイッとそっぽを向くシャルロット。もう気を抜いても問題ないか……。



 今日から一週間後、待ちに待った本編が始まる。

 だが、シャルロットの例があるように、もう俺の知っている「夏の終わりまで」からはズレているだろう。

 だからこそ、他キャラの動向を探りつつ、進んでいるルートを特定することを入学後の第一目的にしておく。


 あとは、シャルロットに友人が出来るのかどうか。そっぽを向いて拗ねているシャルロットを見て、それだけが心配になった。

 

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