第4話
視界が晴れていくと、ベットに腰かけるシャルロットが視界の先にいた。何か用があって呼んだんだろう。
「いきなり呼び出しか?」
「見てられなかったから……」
「えっ?ちょ、ちょっと待ってくれ。———見てた?」
「うん。黒い力の一種みたいで監視も出来るんだけど……あ、使ったら不味かったかな?」
もう既にゲームと違ってきている……。
王子ルートのラスボスだった彼女の黒い力はエネルギーを感知することは出来ても、対象を監視するなんて出来なかった。それに黒い力を真後ろで行使していたにも関わらず声が聞こえるまで俺は気付かなかった、何故だ?今朝は黒い力の嫌な雰囲気を感じとれたのに……。
扱い方は何も教えてない。
たかが意識を少し変えただけで、しかも俺が知る限り二回しか使っていないはずなのに、そんなに急成長するものか?
理解した途端ゾッとする。
俺は何かヤバいものを開花させてしまったんじゃないか?
「いや、問題ない……。扱いも格段に上手くなってる証拠だと思う」
「うん!結構頑張ったんだよ。おかげで今では思いのままだよっ!」
調子に乗っている……感じじゃない。絶対の自信を持って発言している。黒い力の扱いだけを見るならば、たった半日でラスボスの彼女を優に超えている。
「そ、そうか。凄い成長速度だな」
「ふふん」
「俺を呼んだのはそれを見せるためか?」
「それもあるよ。でも一番は……ザック、帰るところないんでしょ?」
うぐっ。でも、そうか。監視していたならわかる……のか。
確かに、俺に帰る家はないが……。
「だからね、ここに住んで?」
それはお願いではなく強制するような、圧のある言い方だった。
「無理」
「ザックに拒否権はないよ?」
ズッと黒い力の塊がナイフの形を模して、俺の首に当てられる。このナイフを作る動作すら俺には回避不能に近い速度だ。
だけど、ここに住むのはリスクが大きすぎる。
「だとしても、万が一バレたら俺死ぬんだけど」
「大丈夫。この部屋の中ならザックは他の人に見えないから」
既に同化すら身に着けているということか。抵抗していた今朝までの彼女と違って、今は何故か黒い力を受け入れていっている……。このままじゃ白いエネルギーに戻すことが不可能になる。そうなれば、彼女の取り戻せるかもしれない明るい未来が完全に消えることになる。
俺が去ってから急に心変わりした?
だとしたら原因は何だ?
「ザック、いいよね?」
ズズッとナイフがさらに迫ってくる。迫って来過ぎて、首の皮が切れて血が溢れ出す。
「仕事の時間になったら、外に出してくれるのか?」
「もっちろん」
「じゃあ、まぁ」
拒否権の無い不利な交渉に、どうにか条件を付けられただけ交渉としては合格ラインだろう。ナイフが首から離れ消えると、何故か首の痛みも消えていた。
「ちゃんと治したから、文句は言わないでね?」
「…………」
力の扱いに関してはラスボスの時を優に超えると評したけど、それすら過小評価だったかもしれない。もう彼女は完全に俺のゲーム知識にはないことをしている。運営は彼女のポテンシャルをどれだけ高く設定していたんだ?
「ザック?ザーック。ザックてば!」
「お、あ、何?」
「続き教えてよ、この力の使い方の続き」
教える……いったい何を?総量で言えばラスボス時に遠く及ばない。にも関わらず既にラスボスの時よりも強いであろう彼女に何を教えろと?
もう白いエネルギーに戻すのは不可能だ。こうして話している間にも、どんどん黒い力を受け入れて適応していっている。
「戻れなくなるぞ?」
「いいよ?だって私は誰かに認めてもらえれば、褒めてもらえれば、それで……それだけで良かったんだもん」
彼女を闇堕ちから救ったつもりが、さらなる闇に落としていた……か。
これは、あるヒロインの攻略時に気を付ける必要のあった、主人公に対する依存症状に似ている。シャルロットがこうなるとは思っていなかったため、全くの無警戒だった。
「あ、ダメだよ?逃げることなんて考えたら」
「読心まで、出来るのか……?」
「そうだよ?言ったでしょ、頑張ったって」
となると、いよいよ打つ手なし。
読心、監視、強制ワープ、武器創造。滅茶苦茶もいいところだ。
「わかった。逃げないよ。だから、読心はやめてくれ」
「いいよ。ザックを信じるね」
信じるか……重たいな。
とりあえず、こうなった以上ネガティブに考えても仕方ない。ポジティブにいこう。まず、シャルロットと居られるのは嬉しい。何度も言うがストーリーは嫌いでもキャラクターは好きなのだ。そして、一つの問題だった住居の確保ができた。仕事には行かせてくれるらしいから、稼ぎにも行ける。問題は風呂だな……。
「教える前に聞きたい。風呂はどうすればいい?」
「お風呂?いいよ、一緒に入る?」
「入らない」
「つれないなぁ。でも、安心していいよ。ザックに同化を掛けておけば、城の中でも見えなくなるから」
問題はもうないよね、とシャルロットが微笑む。俺としては言いたいことが山のようにあったが、どうせ徒労に終わると思い飲み込んだ。
「わかった、教えられることは全部教えるよ」
「うん。ちゃんと教えてね」
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