第3話
次の日、約束通り俺は城に出向き誰もいない所で彼女を呼んだ。もちろん壁抜けを使って城壁を突破し、彼女の部屋になるべく近い位置でだ。
「ねぇ、どうやって城壁を超えたの?」
「秘密。さ、今日からやっていこう、力の使い方講座」
「それは嬉しいけど、使い方?治し方じゃなくて?」
「治すには、まず使えなきゃいけない。その黒い力を全て正しく使い切って、ようやく治るんだ。俺はその使い方と、意識するべきことを教える……専属講師・ザック先生です!」
「ザック先生、わぁー」
反応が薄い。ザック先生悲しいな( ;∀;)
「でもさ、教えるって言ってもザックはこれ使えないんでしょ?」
「うん、なんなら普通の白いエネルギーのほうも使えない」
「落ちこぼれだね」
「うっせぇ」
さて、楽しく進めるのも大切だが生憎と今日の俺にはあまり時間がない。昨日雇ってもらった仕事に行かないといけない。それにここは王城だ。彼女にも一応侍女はいる……はず。だから長居すると、身の危険があるのでササッと教えて帰る。
「じゃあまず、少しだけ黒い力を練ってみてくれ」
「わかった」
ぞおぉと膨れ上がっていく黒い力。それを見つつシャルロットに指示していく。
「少し抑えて……そうそう。それをキープ」
「ううぅぅぅ」
黒い力が出ようとする力が大きすぎて抑えれきれていない。本来はそれでこの黒い力は抜けて使えなくなるはずだが、湧き水のように尽きることなく力が溢れ続けている。予想以上……だな。
「よし、そこまで」
「ふぅー」
「お疲れさん。大体わかったから、一つ伝えておく」
「うん」
「これから俺が呼んだ時、出来る限り最小の力を意識して運んでくれ」
「え、それだけ?」
「そう、それだけ。そもそも、その力で人を運搬できるのはおかしいんだよ。まぁそれだけ力が強いってことだから、一気に治すのは無理。となると毎日俺を運ぶときに最小の力で運ぶことを意識するんだ」
「で、でも」
「そう、君も知っての通りそれは君の意思に反して力が強くなる。だからこそだ」
たったそれだけを意識して実行するだけで、ゲーム通りであれば一月で大体の力は抜けるはずだ。もちろん正しく使ってこそだが。
伝えることも伝えたので、あとは彼女の意識の問題だ。これから毎日確認しに来て、成果に応じて褒めるのが俺の役割だ。それで彼女自身の問題は解決する。あとは根元をどうするかだが、これも彼女が変われば自然と変わっていくだろう。
災い転じてなんとやらだ。
「じゃあ俺を外に運ぶときに意識してみてくれ」
「っ!!」
ズッと膨れ上がっていく黒い力。それが俺を包んでいく。昨日のように誰かに気付かれるかもしれないが、今の彼女の王城内での扱いを見るに、誰が来ても事務的な会話をして終わりだろう。
次に目を開けたとき俺は王城の外にいた。意思に反して力は増幅するためコントロールが効かないのが難点だが、それ以外で言えば便利だと言わざるを得ない。
城壁から離れて、俺が向かう先は畑だ。転生したは良いものの、記憶をいくら辿っても家族の記憶がなく、どこの出身なのかもわからない。だから自分で稼いでいくしかない。だが学園に入学したい俺としては、畑での稼ぎは全く足しにもならない。
このままだと、主要キャラをほとんど見れずに畑仕事で転生生活を終えることになる。それはそれで穏やかでいいだろうが、シャルロットの未来を変えてしまったことで他のキャラに影響が出るかもしれない。
その可能性がある以上、学園に入って周囲を見ておきたい。もちろん俺tueeしたい気持ちも少しは……ある。
どうしたものかなぁ。畑仕事も楽しいんだけど、拘束時間のわりに稼ぎが少ないからなぁ。あと半年足らずで学園に通うための入学試験金を貯め切るのは、今のままだと現実的じゃない。となると、別の仕事を探すべきなんだが、俺は家もなく家族もいないので身分の証明が出来ない。つまり雇う側からすれば怪し過ぎる奴だ。
身分の証明が出来ない、それはつまり裏の組織との関りを真っ先に疑われる要因になる。そうなったら最悪、王都中に噂が広まる可能性だってある。そうなれば学園どころではなく、逃亡生活まっしぐらだ。
入学方法はもう一つある。それはスカウトをされることだ。上級生や講師の目に留まることが出来れば推薦枠で入学試験に参加できる。推薦枠ならお金の心配もないので、試験対策に身を投じれる。
だが、これも現実的じゃない。そもそも上級生の目に留まるだけでも快挙も快挙で年に五人いるかどうかだ。千を超える入学希望者のうち、たったの五人だけ。
どのルートでも才能があった主人公は推薦に選ばれていた。このルートだと王子と関りで……。そうか!シャルロットにお願いする手もある……。
いや、なしだな。学園の様子を見たいだけなら、教員や用務員として入ればいい。ゲーム知識があれば教員としてもやっていけるだろう。
ザクザクと畑を耕す手と、学園に行く方法をひたすら考える頭。段々思考と行動がぐちゃぐちゃになって行き、何故か俺はぶっ倒れた。
雇い主のお婆さんに聞いたことだが、どうやら俺は耕しの最中に鍬を自分の頭に落としたらしい。疲れているんだろうということで、今日はいつもより早帰りである。
ま、帰る家もないんだけど……。マジどうしよ。
「ザック」
いい寝床を求めてトボトボ歩いていると、突然後ろから名前を呼ぶ声がする。振り向いた瞬間、俺の視界が真っ黒に染まった……。
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