ささくれを舐めるように。
源なゆた
ささくれを舐めるように。
――冬の日の、ことだった。
高校の文芸部は、往々にしてオタク女子の
ご
「昨日の○○(当時やっていたアニメの題名だ。)観た?」
「観た観た。××(キャラ名)と△△(キャラ名)やばかった!」
「『お前は俺のことだけ見ていればいいんだ』って可愛すぎじゃない?」
「本当それ。絶対受け」
「誘い受け」
「わかるぅ~」
今の子達と
私達は
その作品には本来無い要素としての同性愛を勝手に紐付けた上で、
そう、有り体に言えば、楽しかったんだ。どう考えたところで自分達には何の害も無い、極めて平和な、遊び。単に皆の趣味が合ったのか、誰かが我慢していたのかはわからないけれども、地雷を踏むなんてことも無かった――ように感じていた――し。
だから、まさか自分に、あんなことが起こるだなんて、思ってもみなかった。
「好きなの」
告白、された。
一般的な高校生なら、
相手が、同性でさえ、なかったら。
その子は、文芸部の仲間だった。
魅力的な子だとは思っていた。
誰と何を話していても『何話してるのっ?』と語尾に【☆彡】でも付いているような勢いと人懐っこさでじゃれついてくる、小動物さながらの可愛らしさ。太陽みたいな笑顔。
当然のように、容姿にも恵まれていた。小さくも均整の取れた身体に、誰もが
――なのにその子が、私のことを、好き?
「ありえない」
と思った。
一部の女子が、男子相手にこういう
でも、女子が、女子に。
それも、これまでずっと仲良くやってきた友達に。
考えられなかった。
そんなに浅い関係だとも思えなかった。
だけど、何かを問い詰める前に、その子は駆け去っていた。
自分が意図せず『ありえない』と口に出していたことには、それで気付いた。
文字通りに、後の祭りだ。心臓は跳ねていたのに、唇は、カサカサになっていた。
その子は、翌日、既に転校していた。
他の
水臭いよね、と口々に言った。でも、流石に携帯電話すら無いような時代ではなかったから、メールを送った。
でも、誰にも、返ってこなかった。いや、正確に言えば、メールアドレスが変更されていて、誰も、ちゃんと送れていなかった。
私は、前夜試してみてダメだった、というのを黙っていた。言えなかった。言えるわけがなかった。
最初は皆悲しかったとか悔しかったとか、色んなことを話したけれども、そのうち、忘れた。忘れることに、した。
――でも。
「あの一言さえ間違わなければ、今頃一緒に居られたかもしれないのに、って、ずっと引っ掛かってた」
「引っ掛かってた、だけなんだぁ」
「忘れられなかったっ!」
「だから?」
冷たい目線。
「
「ふぅ~ん、それで?」
悪戯っぽい表情。
踊らされていることはわかった。それでも良かった。それだけのことをした。
「私と、付き合って、くれませんか」
「な~んか
「え、っと……ごめん」
「好きです」
小悪魔が、ペロリと舌を出してから、笑った。
ささくれを舐めるように。 源なゆた @minamotonayuta
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