film01
スクリーンに映った姿はごく普通の家族の姿だった。
母親と父親そして仲が良さそうな姉妹2人の計4人家族。
「まってよ〜、おねえちゃん〜」
「もぉ〜早くしないとお姉ちゃんも遅刻しちゃうじゃんか」
「え〜まだだいじょうぶだよぉ」
「お姉ちゃんは
姉は玄関で妹のカバンを持ちながら玄関に掛けているカレンダーに目を向けていた。
カレンダーの2月12日の日曜日にはケーキのシールが貼られており、誕生日というのを強調している。
「ほら、カバン持って。じゃあいってくるね!おかあさん!」
「はーい。いってきまーす」
いってらっしゃいという遠くから聞こえる声をあとにドアを開けて学校へ向かう。
「うぅー、さむいよおねえちゃん。カイロもってこればよかった〜…」
「えぇ、アンタまた忘れたの?ほらお姉ちゃんのやつあげるから風邪ひかないでよ?」
「はぁい。きをつけまーす。ふぅーあったか〜」
妹がカイロをシャカシャカと振りながらポカポカと温まっているのを見て姉が微笑んでいる。
「あぁ、もうマフラーも取れそうになってるし、ちょっと待ちな」
「えー、もうすぐつくからいいよぉ、おねえちゃん」
「いいからいいから、ほらこれでカワイイ感じに出来あがり。」
通学中の2人の会話は他愛もない日常会話だったが、どこか温かさを感じ姉が妹のことをとても大切にしている様子が伝わってきた。
◇
場面は少し変わり、妹と別れて学校の教室。
「おはよーキキョウ。今日も可愛い妹ちゃんと登校してたね〜」
「ふふん、自慢の妹だからね。あげないよ?」
「いや、ワタナベお前、お父さんみたいだな」
どうやら姉の名前はワタナベ キキョウというらしい。どこかで聞いたことあるんだろうか。
必死に頭を捻るも何も出てこなかった。
「じゃあこの育てるというbから始まる英単語、ワタナベいけるか?」
「はい!ブリードです!綴りはえーっとb-l-e-e-d?」
「それじゃ出血するだな。lじゃなくて、rな」
「え!ほんとですか!?いや〜危なかった〜」
「ぷっ、キキョウの考えだとこの教科書の牛を出血してんじゃん」
プククと隣の席のクラスメイトが笑うとキキョウはムーっと頬を膨らませた。
「実際の受験問題とかでも緊張するとワタナベみたいなケアレスミスがでるからお前らも気をつけろよー」
「「はーい」」
自信満々で間違えたり、クラスメイト達と冗談を言い合っている様子からキキョウという少女は自信家で教室ではいつも誰かが周りにいて、一言で表すとおちゃめな人気者って感じだろうか。
◇
週末になり2月12日がやって来た。キキョウはワクワクしながら玄関に向かい、出かけようとしている。
「じゃあケーキ受け取ってくるねー!」
「うん!おねーちゃんがかえってくるのたのしみにまってる!!」
「ふふん、楽しみに待ってなさい」
わしゃわしゃと妹の髪を撫でていると居間から母親が出て来た。
「ふふ、昨日雨が降ってて、今日は雪が降ってるから滑って転けないようにね。」
「あっ!おかあさんこの時期の受験生に滑るは禁句!いってきます!」
あら、うっかりといいながらニッコリと笑う母親にムッと怒りながらケーキ屋へと向かう。
「うぅ〜さむっ。カイロ持ってくればよかったな……っておんなじこといってら」
白い帽子をかぶりながら真っ白な息を吐いてぶるぶると体を震わせながら進んでいると大通りにあるケーキ屋が見えて来た。
「すいませーん。ケーキの予約してたワタナベなんですけどー」
「はーい。ワタナベ様ですね」
「チョコプレートになんて書きましょう?」
「え、アタシが決めていいんですか?」
「お電話では受け取りに来た時に伝えると伺ったのですが……」
「マジか、うーんそうだな〜よし、決めた!」
◇
チョコプレートのメッセージも決まり、無事ケーキを受け取った帰り道。
雪が行きよりも酷くなっており、少し視界が悪い。
「ケーキ受け取ったよ」メッセージを母親に送信し、きっとアイツも喜ぶだろうとウキウキしながら信号の色が変わるのを待つ。
その瞬間だった。
タイヤが擦れる音と大きなクラクションの音が歩道に向けて突っ込んでくる。
凍った道路を滑りながら、急速に近づいてくる車を回避することができず、鈍い音が周辺に鳴り響いた。
映像が乱れ、視界が霞んでうっすらとしかみえない中、ぐしゃぐしゃになったケーキに這って近づいていくキキョウの姿があった。。
「えぇっと………しゅ…けつ、はlだったっけ。はは……身をもって、学ぶと…は、ね」
どんどん視界が赤く染まり、なにも見えなくなっていく。
「あ、ぁ…ケー……キが…ダメになっ…ちゃった」
「ごめ、ん…ね、こ、んなことに…なっ………」
どんどんと赤色に染まっていく雪とイチゴのような赤い液体が付いたケーキのてっぺんに刺さったのチョコプレートが映し出され、そこには 誕生日おめでとうカスミ。大好きだよ。 と書かれていた。
film01 ワタナベ キキョウ end
◇
映像が終わり、ソウマの方を見るとボロボロと大粒の涙を溢している。
「っか…キキョウは…こんな最期だったんだ……」
「…知り合い?」
「キミが来る少し前にここにいた子だよ。でも、ボクは彼女がここに来た経緯は知らなかった」
「その子いまは?」
「わかんない。ここに来た子はみんなボクを置いていなくなっちゃうんだよ」
「……そっか」
かける言葉が見つからずにそわそわしているとソウマがイスから立ち上がった。
「ここは多分ね、死にきれなかった人達の墓場の代わりみたいな場所なんだとボクは思うんだよ」
「っていうことは俺も……」
どこかで死んで、死にきれなかったからここにいるんだろうか。
「必ずしもとは言い切れないけど、多分…」
「そっか。でもこれで死んだってことがわかって一歩前進した、だろ?」
「あはは!キミ、もしかしてキキョウの自信に感化されちゃった?」
ソウマはプククと笑い、涙が溜まった目を擦った。
「そう、かも?」
「キキョウはここに来てからずーーっと妹さんの心配をしてて、最終的に妹を探してくるって言ってここを出ていっちゃったんだよね……」
「……また2人で仲良く過ごせてるといいな」
「そういえば妹を必ず見つけてここに戻ってきて、妹について三日三晩語るって約束もしたんだよ!」
「どんな約束だよ、それ」
……俺にきょうだいはいたんだろうか。もしいたとして俺がいなくなったことで生き苦しくなっていないだろうか。きっとさっきの映像にいた妹のカスミはつらい思いをすることになるだろう。
それでも彼女たちの家族愛は本物だったと思う。死が2人を分つとしてもまた巡り会える、そんな気がする。
「俺はどんな人間だったんだろう」
いつのまにかぽろっとそんな言葉こぼれ出ていた。
「きっとキミはいい子だったよ。だって、ボクを笑顔にしてくれたから」
「それだけでいい子ならみんないい子だよ」
「たしかに、ならわるい子かも?」
……いい子であってほしいな。
また開演のブザーがなり始め、周りが暗くなっていく。
「…今度はキミの記憶に関係している話だといいね」
「あぁ」
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