チート野郎がここにいます。~ゲームの世界に転生したら『成長限界突破』を付与されてました。~
アリー・B
第1話 Pスキル『成長限界突破』
『……どうやら、わたくしがご案内できるのはここまでのようです』
うん。知ってた。
次のセリフは、確か……。
『冒険者ソラタ。ここから先の道はあなた自身が切り開いてゆかねばなりません。英雄を志してもいい。安寧を求めてもいい。すべては己の心の赴くままに――』
そうそう、そんな感じだった。何百回いや何千回いやさ何万回、とにかく初期スキル吟味のためのリセマラを繰り返したので、だいぶ前のことではあるけれどほとんど丸暗記していた。
チュートリアルが終わるまでは、スキップ機能が使えなかったんだよね。あのゲーム。
――もっとも。『この世界』ではそもそもスキップ機能があるかどうかあやしい。
あったとしても使いたくない。
目の前の人間が突然超高速で動いたりしゃべったりするところを想像してみてほしい。トラウマになる自信があるよ、僕は。
(……それにしても)
ステータス画面を開く。
Name:ソラタ(♂)
Race:ハーフエルフ
Job:ファイター
LV 2/∞(Next.40)
HP 38/45
MP 19/20
STR 21
CON 9
INT 16
MEN 11
DEX 14
LUC 20
Raceは種族、Jobは職業。種族によって選択可能な職業も変わり、職業との組み合わせによって各能力値の伸び方が変わってくる仕様だ。
純粋なエルフだとファイターを選べないので、僕はハーフエルフを選択した。ハーフエルフ×ファイターは、いわゆる魔法戦士系、物理攻撃も魔法攻撃も強力だが、反面、防御面では最低クラスに近いピーキーな組み合わせなのだ。
全滅してもリトライポイントに戻るだけ。それなら攻撃特化のほうがかっこいい。
あと、なんかこう。ロマンがある。気がする。いやよくわかんないけど。
そんな軽い気持ちでこの組み合わせを選んだかつての自分を、ほんの少し恨めしく思う。
(いや……それはいい。よくはないけど、今はとりあえずいい)
LV 2/∞(Next.40)
問題はここだ。
リリース直後から寝る間も惜しんで遊んだので、『現実では』上限である99まで上がっていたのだが、チュートリアルが発生している以上ニューゲームという扱いなのだろう。だから、今のレベルが低いのはいい。せっかくがんばったのにな。ちぇ。いいんだけどさ。ちぇ。
今のレベルが2なのは、チュートリアル内で倒したモンスターから得られた経験値でレベルアップしたから。このイベント戦闘は回避不可なので、ここでレベルアップするのも仕様である。なのでここもなにもおかしくない。
……やはり、何度確認しても見間違えではない。
最大レベル――『∞』。
さっきも言ったように、本来ならこのゲーム内におけるレベルの上限値は99。チュートリアルの途中の説明で、女神さまの口からも直接説明があったのを確かに聞いた。種族や職業のみならず、モンスターやボスも含めて例外はない。
ない……はず、なの、だけど。
『それでは、別れのときです。冒険者ソラタ。あなたの旅路に幸の多からんことを。女神ソレイユの名において、あなたに祝福を』
本来なら、このタイミングではじめて、ランダムで初期スキルを一つ与えられることになる。それまでスキル欄は表示することはできてもなにも載っていないはず。
にもかかわらず、僕のステータス画面のスキル一覧には、最初から『コレ』があった。そしておそらく、というか間違いなく、僕の最大レベルがおかしなことになっている原因も『コレ』だ。
Pスキル:
成長限界突破
Attackが攻撃、Guardが防御、Passiveは常時発動のスキル。レベル99だったときの僕は、習得可能なスキルをほぼコンプリートしていたし、それ以外も完全に網羅していると自負していた。
その僕でさえ、こんなスキル、見たことも聞いたこともない。攻略サイトや掲示板スレもチェックしていたけれど、誰一人こんなスキルを知っている人はいなかったはずだ。
ただでさえ混乱しどおしなのに、これ以上僕のSAN値を削らないでほしい。本来ならこのゲームにはないパラメータだが、今の僕の内部には間違いなくマスクデータとして存在している。たぶん、あと1か2だろう。
あるいは、はじめから0だとでも言うのだろうか――。
『また会えることを祈っています。冒険者ソラタよ』
まだいたのか女神。いや知ってるんだけど。このセリフを最後にチュートリアルが終わり――
『そしてその暁には、どうか――』
――わたくしを ■して――
「え……」
顔を上げると、すでにそこに女神ソレイユの姿はなかった。瑞々しい草原が広がり、少し遠くにうっすらと見える森林地帯。空にゆらゆらと立ちのぼる白い煙、あそこに最初の拠点となる町があるのだろう。
「なに、今の……? 幻聴、とか……?」
少し強い風が僕の頬を撫でる。現代日本ではよほど地方にでも行かなければ感じられない、自然本来のさわやかな風。ほんの少しツンとした土の香りが鼻をつき、どこか懐かしい気持ちがよぎる。
見上げれば、蒼穹。太陽のまばゆさに手をかざし目を細める。
さっきのチュートリアル戦でもしっかり痛みを感じた。
五感の全てが、僕の存在を証明している。
「あぁもう、なんだってんだよぅ。なんだってんだよぅ」
がしがしと髪の毛をかく。普通の人間よりも長く、純粋なエルフよりもちょっと短めな、今の僕の耳。髪の毛がさらりとこすれ、こそばさを感じた。
それで最後だ。うじうじ考えたり悩んだりするのは。今ここにいるのは、現代日本の冴えないオタク男子・南雲空多(なぐも・そらた)ではない。ハーフエルフでファイターの一点突破型ロマン砲、冒険者ソラタだ。
夢にまで見たゲームの世界が目の前に、本当に広がっている。今はそれだけでいいじゃないか。
心が躍る。足が弾む。鼓動が速い。汗がにじみ頬を伝う。少なくない緊張と恐怖、それを倍してなお余りある高揚感が全身を包み駆け巡る。駆け抜ける。
「さぁ、行こうか。待ってろ、世界」
僕のニューゲームが、ここから始まる――!
あ。終わりません。続きます。ちゃんと。
チート野郎がここにいます。~ゲームの世界に転生したら『成長限界突破』を付与されてました。~ アリー・B @alibi
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