硲ノ箱ハ生ルー2







刻限こくげん

夕焼けは広がり

美しく。

天は

濃厚なべにすか。




寺の敷地内にある

八角堂の清掃中。



寺の当代である

碓井うすい溫烱はるき

声を掛けられた。


魔除まよけの菖蒲しょうぶ打ちを終え。

そなえ皿に、と

今日は芭蕉ばしょうを選んだのだ。



「 落とすなよ、ハルキ 」


「 八角様、

  お声が掛かるとは思っておらず 」


「 今、起きた。 

  菖蒲の香りに呼ばれたな 」




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この寺。 

檀家だんかを持たない。

取り立てて

僧侶然そうりょぜんとした

装束もなく。


碓井うすい溫烱はるき

作務衣さむえ

頭には手拭てぬぐいという軽装。

禿頭とくとう故の

暑さ寒さを凌ぎ。


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この世のモノではなく。

あの世のモノでもなく。

自然のモノでもなく。

妖怪やあやかしの類でもなく。


名も知らぬ

ほむらの黒い影』から

人を守る寺。




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「 地の底から

  鈴の音が近づいている。

  咆哮ほうこうが来る。

  心せよ、溫烱はるき 」


「 降りますか、ぬしよ 」


「 今宵は、溫烱はるき

  母屋で飲むか 」



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寺での雨は

特別だ。


鈴の音と共に

 災厄の咆哮ほうこう

駆け抜ける。




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