第22話 小さな応援(オースティン視点)
クロエさんとルルさんともう一度会える日がやってきた。
五日後、約束をしただけで細かいことを決めていなかったなと思う。それでも改めてお礼をしようとした結果、お菓子を用意することにした。
緊張を抱きながら二人の家を訪ねれば、ルルさんが勢いよく飛び出してきた。
相変わらず元気だなと微笑ましく思いながら、怪我がないか確認した。
どうやら本日はピクニックに向かうとのことで、初めてのことにわくわくした。普通なら、小さい時に経験するものだろうという偏見があったので、そのことを伝えるのにほんの少しだけ抵抗感があった。
それでも、クロエさんになら。
不思議な安心感があったので、そのまま伝えてみた。
「初めてのピクニックということでしたら、絶対良い思い出にしましょう」
「……ありがとうございます」
どんな返しがくるかは予想できなかったものの、想像以上に温かい言葉に嬉しくなった。その後ピクニック場所に到着すると、シートを敷いてお昼ご飯となった。
まさかの手作りサンドイッチに、胸が高揚した。嬉しさのあまり〝完食する〟と即答してしまった。
サンドイッチはとても美味しかった。何個でも、何度でも食べたいと思うほどだった。
幸せに包まれながら過ごしていると、ルルさんの帽子が飛んで行った。追いかけようと腰を上げれば、帽子の先にはクロエさんのお知り合いがいるとのことだった。彼女を見送ると、ルルさんと二人になる。
じっとルルさんに見つめられていることが不思議で、どうしたことだろうと不安になる。
「ルルさん、どうしましたか」
「おーさん、おかーさんのことすき?」
「えっ」
突然の発言に、俺は固まってしまった。
「すきならがんばって。あたしおうえんする!」
幼い子とは思えないほど真剣な眼差しと言葉に、考えさせられてしまった。
すきならがんばって。この子はどこまでわかっているんだろう。
「頑張る……ルルさんはどういう意味でそれを」
「もちろんこいのおうえんだよ!」
「こ、恋」
なぜわかったのだろうか。クロエさんへの自分の気持ちは、誰にも伝えていなかったはずなのに。そう悶々と考え始めてしまった。
これでも顔には全く出していない自信がある。ルルさんが傍目から見ても、俺が恋をしているようには映らないはずだ。それなのに、恋する様子に気が付いたのは何か理由があるのだろう。
「……ルルさん、どうしてそう思ったのですか?」
「うんとね、おーさんがよくおかーさんのことみてるなっておもったの」
「視線、ですか」
「うん!」
確かによく目では追っていた。ルルさんからすれば、それはわかりやすいことだっただろう。
「だからあたし、おーさんのことおうえんするよ」
「……ありがとうございます」
その気持ちは厚意として受け取っておくべきだろう。ありがたい言葉に、少しだけ胸が軽くなった。
「でね、おーさんはもっとぐいぐいいっていいとおもうの」
「ぐいぐい、ですか」
「うん。たとえばね、てをつないだらどうかな?」
突然難易度の高い提案をしてきたルルさん。これは困った。
「さすがに手を繋ぐのは早すぎる気がします」
「だめなの?」
「そうですね」
純粋な眼差しを向けられると、少し胸が苦しくなってしまう。
何も気持ちを明かしていない状態で、いきなり手を繋ぐとなればクロエさんを困らせてしまうのは間違いない。
「うーん……」
納得のいったような、いかないような顔をしたルルさんは目を閉じて考え込み始めた。
手を繋ぐという言葉が出るということは、この子は恋愛とは何かがわかっている気がする。それが良い悪いというわけではないが、すごく不思議な子だ。
「あっ!」
「ど、どうしました?」
何か思いついた様子のルルさんは、俺の方に笑顔を向けてくれた。
「えすかれーたー!」
「えすかれーたー?」
きらきらとした眼差しから出た言葉は、俺には理解できない言葉だった。
「えすかれーたをすればいいんだ!」
「えすかれーた……」
復唱してみるものの、心当たりのない言葉だ。それでもルルさんにとっては大事なもののようで、一生懸命何かを提案してくれるのだけは伝わった。
「ルルさん、えすかれーたとはどういうことをするのでしょうか」
「えっとね、こうじゃなくて、こう!」
ルルさんは実演付きで説明してくれた。
手を重ねたかと思えば、今度はちょんと指先だけが触れるだけの動作を見せてくれた。
「あっ、エスコートですね?」
「うん、えすこーと!」
ぱあっとより顔を明るくさせたルルさん。
なるほど、エスコートか。ようやくルルさんの言葉を理解できることができた。
確かにエスコートは必要だ。先程は残念なことに意図せず両手がふさがってしまった。よく考えてみれば、クロエさんをエスコートするのが今日の役目でもあるはずだと考え直した。
「ルルさん、ありがとうございます。頑張りますね」
「うん、おうえんしてるね!」
にっこりと微笑むルルさんに、俺は頷きで返すのだった。
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