75話 焼け落ちた翼、それが絶望ならば。
「いいえ、いいえ、そんな言葉に騙されないわ!」
「私は知っているの、この都市が担う役割を、その意味も知っている!」
「この世界を作り出した神はこの都市を希望とした。」
「そうだな。だがそれを破ってでも、お前は繁栄都市の人類を消滅させた。」
「そうよ、だって悪い?私を見ておいて、勝手に私を殺そうとするんだもの。私の気が悪くなるのも当然でしょう?」
「あんただってそうでしょう?それとも、永い眠りついてあんたには関係ないのかしらね?!」
「眠りなんか関係ない、私だって眠りを妨げられている。それでも、私は人類を滅ぼそうと思わない。少々運動しようかと思うだけだ。」
「はあっ?本当にそれだけ?クゥトゥ、あんたが眠りを妨げられて何かしでかさなかったことがあるの?うそを言わないで頂戴。あんたも私と一緒でしょ。」
「確かに少し派手に風を起こしてしまうかもしれないが、それだけだ。お前のように、明確な破滅を送ったりはしない。」
「............もういいわ。あんたとこれ以上話していても、埒が明かないもの。」
何かが壊れたように、ユグノアは空を仰ぐ。
悪意の炎がみるみると育っていき、太陽だったものは黒点へと至る。
ユグノア自身も深紅のドレスが炎のように揺らめいて、黒に染まっていく。
それは絶望のような、破滅のような、何か失ってしまうような情熱が感じ取れる。
「ふむ、またいつものパターンだな。その威勢がどこまで続くだろうな。」
クゥトゥの目にはその炎が間違いなく、己の身を焦がす運命だと理解している。
きっとそれは苦しいものだ。
それでも、彼のために、契約者のために契約を全うしなければいけない時が来たのだ。
クゥトゥはぼろぼろの翼をはためかせ、髪の触手がそれぞれレーザーのような水を放ち、ユグノアの炎を鎮めようとする。
しかし、その攻撃がユグノアに効くことはない。
「やはりこの程度の攻撃では意味がないか。さて、どうしたものか。」
思考を巡らせようとするも、炎がクゥトゥを狙って飛んでいく。
その炎を翼で飛んで回避していく。
着弾した炎はその地点を炎上させていき、さらにその炎を燃え滾らせる。
クゥトゥが回避すればするほどこの山は燃えていく。
まるで、クゥトゥのフィールドではないのだと、ユグノアの炎は全てを燃やしていく。
「くっ、これではこちらがジリ貧になるばかりだな。」
「それならば、こうするしかないか。」
圧倒的なまでの魔力量がクゥトゥの周囲に収束していき、暗雲が空に立ち込め。
嵐がやって来る。
弾丸のように降り注ぐ雨がユグノアの炎を鎮火していく。
「どうだユグノアよ!?これでお前の領域ではなくなったなぁ!」
くははっと笑って、ユグノアを煽るクゥトゥ。
ユグノアの口角はそれ見て、だんだんと上がっていった。
「ふふっ...ふふふふふっ...!!!!」
狂気的笑みを浮かべるユグノア。
彼女は悪炎を炎上させ、武器を顕現させる。
真っ黒に揺らめく復讐の槍。
それが何万本とユグノアの周りに展開される。
「その程度で私が殺せるわけがないだろ。」
クゥトゥもその槍を迎撃するために、自分の触手を使い、水のレーザーを放つ。
ユグノアから放たれる槍とクゥトゥのレーザーがぶつかり合うが、ユグノアの槍の数があまりにも多すぎた。
クゥトゥはレーザーで迎撃しながら、槍を飛んで回避し続ける。
ユグノアはそれだけで終わらない。
「終わりだ、クゥトゥ。」
ユグノアの背後にあった黒点が大きくなっていたのに気づけないだろう。
それはブラックホールに飲み込まれるかのようにクゥトゥを黒点から生み出された炎の触手が誘い込もうと迫ってきていた。
「ああこれだったか。私がそう感じてしまう運命を見たのは。」
抵抗することもなく、クゥトゥはその炎につかまる。
そして、ぼろぼろの羽根は焼け落ちた。
「クゥトゥ!!!!!!」
研究室から出てきた、アニマは彼女が黒点に消えるのを見る。
アニマの感情が高まるほどに。
悪炎は燃えていく。
「あなたも、クゥトゥとあの時の人類と同じように、焼いてやるわ。」
その目が希望を絶望に変えたのだろう。
瞳孔に光はなく、うつろう黒炎が燃えているだけだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます