エゴライグリーア 緋演
踊れ...踊れ...
怒れ...怒れ...
哀しめ...哀しめ...
笑え...笑え...
動け...動け...
声を... 「だぁっ...せぇ...!」
まただ。
また、声を出せなかった。
動いて、踊れて、感情を出せる。それなのに、声だけは出せない。
声が出せないだけで不便は山ほどある。
何かを伝えるのには筆談しなければならない。
もしくはボディランゲージを使うか。
地獄だ。
人は声が出せないだけで欠陥となってしまう。
どれだけダンスが上手かろうと、どれだけ優れた感情表現ができようとも...
声が出なければ、欠陥となる。
ゴミなんだよ......!
私は...!!!
役者になりたくて努力してきた。
それなのに...それなのに...
声が出せなければ意味がないな。君の努力はすべて無駄だ。君は役者に向いていない。
第一、そのやけどだらけの顔では誰も君を見たくないだろうね。
もう、いやになった。
この言葉を言われたとき、全て終わりにしたくなった。
どれだけの涙が失われ、心がすり減ったかわからない。
それでも、私は...
努力し続けた。
きっと誰も私をわかってはくれない。
頭がおかしいって思われても仕方ない。
だって、私は...
だって、だって!私は!!!
「......知っているから!!!」
突如として、私の声が部屋に響く。
私の声に驚いた。
透き通るような心地いい声。
これが私の声なんだって、涙が出てきた。
「でもどうして?どうして今になって、声が出るようになったの?」
「その疑問には僕が答えよう。お嬢さん。」
「あなたは...?」
「僕のことは君を攫いに来た悪役と思ってくれ。僕はね、君のその努力と才能に引き込まれたんだ。確か役者になりたいと言っていたね?大丈夫。それは僕が叶えてあげるよ。」
「私が役者になれるの?それは本当?」
「本当だよ。それに君は名前がなかったよね?だから、名前を、役者としての名を付けてあげる。」
「マリア・ベアトリクス。それがこれからの君の名だ。」
「マリア・ベアトリクス...それが私の名前なのね。いい名前ね。」
「それじゃあ、マリア君。君の望み通り役者にしてあげるよ。」
謎の男はそういうと、私に触れた。
触れたその手から火が出ていた。
熱い...熱い...!!!
体が一瞬で火に包まれた。
でも、不思議と息苦しくはなかった。
それよりも、体中がみなぎっていた。
「どう?びっくりした?君は今、悲劇のヒロインとなったんだよ。マリア君。」
気づけば私は漆黒のドレスを身にまとっていた。
「これは一体何なのかしら...?」
「マリア君は役者だ。それから努力し続けてきた、マリア君はなんでも演じることができる。そうだよね。ならやることはただ一つだよね?」
「役者になれる!!!」
「そう正解!でも、この世界じゃない。君はこの世界にはもったいなさすぎる。はっきり言って、過剰だ。だからだ、僕の下で役者をやらないかい?」
「あなたの下で?誰ともわからない悪役さんのあなたを信用できる?」
「そうだった。僕は悪役だったね。それじゃ、君を攫うことにしようっと。悲劇のヒロインは悪の手先にさらわれて、悪のヒロインとなる。これでいこう!うん、面白いね。」
私は訳も分からず、彼に攫われる。
彼のいうことが本当なら私は...なんでも演じられる。やりたかった役が全部できる!
うれしい。うれしいけど、私はどこに連れて行かれるんだろう?
凄い勢いで次の屋根が見えては、違う色の屋根が目に映る。
「ごめん...マリア。一喜一憂の夢を見せてしまって。」
彼は何かを言ったようだけど、風が強すぎて何を言ったのか聞き取れなかった。
すると彼は、私を刺した。
当然のことでよくわからなかった。
どうして急に刺したのか。
どうして攫ったのかも。
落ちていく、高いところからだ。
きっと、私は助からない。
彼は私を見て口を動かした。
「また、会えるよ。」
生まれ変わってもかしら。
そこで私の意識は途切れていく。
彼は戦っていた。フードを羽織る何者かと...
ああ、私は何もできなかった。
この努力は演技はだれのために?
わかっている。
誰も見てくれない中、彼だけは私を見ていてくれた。
なら、それは彼のために捧げるためだ。
鼓動はやまる。
植え付けられた火は育つ。
歪んだ火が顔のやけどを仮面で隠す。
「マリア・ベアトリクス。超越者たちがあなたを歓迎しましょう。」
「緋演。それがあなたの超越です。どう使うかはあなた次第。我々はあなたに期待しています。」
どう使うかは決まっている。
彼を助けるために使う。それだけだ。
その緋は、リベンジのために。
復讐の火を狙う。
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