70話 なんでもボス戦はイベント戦的な感じのパターンもあるらしいよ?
重く開かれていく扉......
僕は見た。
何かに祈りを捧げる一つの存在を。
それは人ではなく、魚人というにも大きすぎた。
足をその先へと踏み入れる。
コツコツと足音が鳴る。
それに気づいたようにその怪物は祈るのをやめてこちらに振り返る。
じろりと濁った黄金の瞳が僕を見据える。
その瞳は狂気を孕んでいる。
見られているだけなのに寒気が止まらない。
一体何なんだろうこの怪物は?
僕の疑問はきっと解消されないだろう。
ひたりひたりとその怪物は僕の方へと足を進める。
口を開いた怪物は...
「お主は......人間ではないな......だが、その色は人間の色だ...不思議だ。」
「お主の目的は分かっている...この神殿の奥にある研究室。そうだろう...?」
「...なんで知っているんだ。」
「見ていたからだ。」
「ストーカーか?」
「ストーカー...?ふむ、意味はよく分からんが......良くは思われていないようだな。」
見た目によらず、人語を話す怪物。確か上位の魔物は言葉を理解し話すことができると言われているから、こいつは魚人の上位種族なんだろうな。
「お前はどういう存在なんだ。」
「我か?我はこの神殿の守護者。名をディゴンという。」
「ディゴン、僕はその先の研究室に行きたい。通してくれないか?」
「それは無理な相談だな...我はこの先に何物も入れてはならないと彼女に言われているからな。」
「どうしてもなのか?」
「......どうしてもだ。すまないな、主よ。」
「そうか、じゃあ実力行使だね!」
「確かにそれも一つの選択だが、それは早急な判断ではないのか、主よ?」
「どういう意味なんだ?」
「我はこの先に何人も入れてはならないと言われている。が、我はお主を気に入っておる。」
「それでだ、物は言いようなんだが、我が崇拝する神を復活させてはくれないか?」
「そのお方が復活なされば、我はお主をこの先に通すことができる。」
「そのお方って、さっき祈りを捧げていた像?」
「そうだ、あのお方は我らが水に生ける種族の祖であらせられるお方だ。復活には莫大な魔力リソースと供物が必要となる。」
その神を復活させることができれば、僕はこの怪物と戦うことなく研究室に行けるのか。
「分かった。僕がその神を復活させる。」
「おお、そうかそうか。それは頼もしい限りだ。」
「それでは、この像に魔力を注いでもらいたい。」
「供物はどうするんだ?」
「供物ならさっき、お主が焼き払ったであろう?あれらの魂がもう像に捧げられておる故、供物は足りておる。後は、お主の莫大な魔力があれば復活するのだ。」
「ふぅ~ん?復活したあのお方が暴れるなんてことはないよね?」
「それはないとは言い切れないが、私がいる以上そうなることは低いだろうな。」
「じゃあ、魔力を注ぐよ?」
そうして、僕はその偶像に手を添えて魔力を注ぐ。
すると、偶像の方から僕の魔力を強引に吸収してきた。
「くっ...すごい勢いで魔力が吸われていく。」
「気を強く持つのだ...あのお方に飲まれては帰ってこれなくなるぞ!」
「分かっているよ!持ってけよ僕の魔力!」
僕は魔力炉を全力で回して魔力を補充しては、魔力を注ぐ。
かれこれ、10分ほどそれを繰り返していると...
像が光り出して、眩いほどに輝くとそれは形を持とうとした。
暗く深く、黒い底からそれは顕現した。
触手の様な髪に、朽ちたような翼、それに人形のような顔立ち。
場を一瞬で支配するほどの圧倒的存在感。
それが神であると、本能で分からせられた。
「その者が私を復活させたのか?」
「そうでございます、我が主神、クゥトゥ様。」
「なるほどな...大体わかった。お前名は何という?」
「...僕ですか?僕の名前は、アニマです。風槍院アニマ。」
「そうか、アニマというのか......アニマ!?」
「今本当にアニマとそう名乗ったか?!」
「えっとそうですけど?」
「ふふっ...あッはッはッ!!!これが運命か!!!面白いな、面白すぎる!!!」
「おい、ディゴン!アニマはこれから我の伴侶とする!異論はないな?」
「もちろんでございます。我が主。アニマ殿が我らが血族となること感嘆の極みでございます!」
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってよ。なんで僕が君の伴侶になるのさ!?」
「なぜも何も、お前とは私は契りを結んだ仲だぞ。今更伴侶にする程度で騒ぐ出ない!」
「ええっと、契りってもしかして復活させたこと?」
「そうだぞ、私を復活させた時に私が一方的に契約を結んでおいた。」
「その契約って何なんですか。」
「私の力が使えるのと、私の加護を得るという契約だな。」
「僕のほう何を差し出すんですか?」
「それはもちろん、魔力に決まっておろう?なぁ、ディゴン?」
「その通りでございます、クゥトゥ様。アニマ殿は、これから先未来永劫クゥトゥ様に魔力を供給させ続けなければなりません。気を確かにですよ、アニマ殿!!」
「僕の本体じゃないんだけどこれ。」
「そんなのは知っておるぞ、それを承知で契約したんじゃ。」
どうしようか。この状況。
まぁいいやどうにでもなれだ。
「それで、その契約について分かったし、それでいいんだけど。そのクゥトゥ様は復活したら何をするの?」
「うむ、お主についていくに決まっているだろう?何せお前は、私の伴侶なのだからな?のう、ディゴン?」
「ええ、アニマ殿はこれから先、クゥトゥ様を支えていくのです。当然、クゥトゥ様もアニマ殿についていきます。頑張って我が主神を満足させることで、我らが魚類は明るいものとなるのです。ですから、アニマ殿にはクゥトゥ様のお世話を何卒よろしくお願いしたいのです。」
「それって要は、押し付けじゃん。」
「いえいえ、何を仰いますか。クゥトゥ様は、海の神。そのお力は、圧倒的にございます。」
「そういうことだ、私はめちゃくちゃ強いからアニマを守れる。アニマは私に魔力を捧げる。ウィンウィンの関係だな。」
「もうそれでいいからさ、ディゴンさん、僕は研究室に行っていいんだよね?」
「どうぞお通りください。......それと彼女にはお気をつけて。あなたを見ていらっしゃいますから。」
ディゴンは僕にだけ聞こえるようにそう言ってきた。
ディゴンは僕たちを見送るようにお辞儀し、僕たちは神殿の研究室に向かうのだった。
「ところで、アニマよ。お前、嫌な女に目を付けられているな。」
「嫌な女?人なんてこの都市にいないんじゃないんですか?」
「くくっ、そうだな。この都市には人間はいない。だが、邪神はいる。そうだろう?」
「まさか、嫌な女って邪神のことですか!?」
「そのまさかだ、アニマよ。あやつはそうだな、めんどくさい奴だ。あいつと相対するときは、変なことを言うなよ?」
そうニヤニヤ言ってくるクゥトゥ様。
変なことなんて言わないし、倒さなきゃいけないし。もうよくわかんなくなってきた。
「僕はそんなこと言いませんよ、クゥトゥ様!」
「......どうであろうな?」
「なんですかその間は!まるで僕がやらかすみたいな。」
「私は何も言っていないぞ、想像がすぎるぞ、アニマ。」
「なんか、手玉に取られてる感じが嫌です。」
「仕方ないだろう、私は神なのだからな。」
「はぁ...本当にめんどくさいことが次から次へと増えていく。どうなるんだろうこの先...」
僕が自分の未来を憂いていると、研究室の扉が見えてきた。
4つ目の研究室だ。残る研究室はあと一つ。元の体に帰るために、頑張ろう。
「...あやつ寝返ったか。それにあのタコの臭いがする。」
「泳がしていたのだけど、これ以上好きにさせてあげたら、私が危ないわ。」
触手のように蠢く黒い髪が、ワイングラスを掴み、グラスをあおる。
「それにしてもまだ残っていたのね、あいつらの最後の切り札が。」
「それでも、私には届かないのだけど。」
細長い素足が真っ赤な薔薇を踏み潰す。
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