閑話 ドクターは見た。


無垢な白い部屋のベッドに少年は眠る。


その少年の心拍音は完全なフラット。


それは少年の死を示していた。


この部屋に来て、彼の手を握る者、ただ彼の顔を見る者、彼のために祈る者。


彼の友人、家族、先生、ここを訪れた者は信じていた。


まだ生きているんだと。


それは私も信じている。


彼の魂は、いまだ肉体に宿っている。


彼の魂が乖離しない限り、彼を蘇らせることは叶う。


しかし、肉体を修復しても彼の意識は戻ってこなかった。


まるで意識だけがどこかに行ってしまったように感じられた。


「君は今一体、どこで何をしているんだい。アニマ君...」


私は彼のカルテに目を通す。


身体に異常なし。


精神に異常なし。


異能は身体能力強化【E】。


この異能をいくら使ったところで肉体は死なない。


レベルの塔に映し出されていた、記録を見る。


そこに映っていた彼は、異常であった。


ありえない身体能力と魔力。


彼のステータスでは、Cランク以上の動きは不可能なのに、彼はそれをこなしている。


魔法もそうだ、あの黒い魔剣。


あれを維持するのにはMPが500以上なければすぐに魔力が無くなってしまう。


彼は一体どこから魔力リソースを持ってきているんだ?


彼を調べれば調べるほど、異常性が湧いてでてくる。


「っはぁ......」


「悩んでも仕方ないか。」


私はこめかみを抑え、栄養剤をあおる。


ふと何かを思い、彼の顔を見る。


ただ一瞬、ほんの一瞬だけ、彼の心拍音が鳴った。


「君ってやつ本当に......いや、これを言うの無粋だね。」


白衣を纏う。


彼の帰還は近いと、伝えるために。

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