1章 紅き月、吠える狼

1話 入学試験を受ける以外に選択肢がなかった


唐突な話になるんだけど、聞いてくれるかな。


実は今、困っていることがあるんだよね。


僕の母親に第一中央学園に通いなさい、通わないなら冒険者になって生活しろと言われてしまってね。


僕としては、冒険者なんて仕事はしたくないんだ。


だって、冒険者って......毎日のようにダンジョンや依頼をこなして命をすり減らして戦う職業だろう?


しかも、冒険者ランクが高くなればなるほど、死ぬ可能性が高くなる。


まぁ、ランクが高くなれば報酬もそれ相応にもらえるんだろうけどさ。


それでも、僕は冒険者なんて血生臭くて、ハードワークな職業には着きたくはないかな。


だからかな、僕には第一中央学園に通うしか選択肢がないのは。


僕の手元には第一中央学園のパンフレットが握られている。


その1ページ目を見れば、規格外の校舎と美男美女が載っていた。


なんだろう、僕にはないキラキラとしたその陽のオーラに僕の心はダメージを受けているよ。


陰に生きる僕にとってそれはまぶしすぎる、そう思って僕はパンフレットを閉じた。


僕はこの学園に通うらしい、しかしだ。


入学には入学試験を受けるらしい!


試験を受けることは当たり前のことらしいが、僕は学校に通ったことはない。


そんな当然のことという風に言われても、僕には通じないのだ。わははっ。


そしてその入学試験が明日にまで迫っているよ。


困りごとっていうのはそう、入学試験のことだったんだ。


当日何やるとかも知らないんだよね、ハハッ。


僕の母さんによる情報だと、入学試験は入学する学生の能力を測る為に行われるらしく、入学条件は異能や才能を最低でも一つ持っていることらしい。


そんなのでいいのかよと思うよね。


僕も最初はそう思ったし、強い異能やスキルとか能力がないと入学できないと思っていたけど、そうではないらしい。


第一中央学園の校訓というのが未来の英雄を育て、更なる高みへと挑んでいくというなんか壮大で魔王にでも挑むのかという感じだ。


実際に魔王はいるし、昔は勇者によって討伐されたこともあるけど、今の魔王と人類は仲良くしているし、魔王に挑むなんてことは起こらないと思うけどね。


それで英雄を育てるために各都市から様々な異能や能力のある人間をスカウトしている総合的な学園らしい。


まぁ学園都市自体が世界の中心だしね。


色々な都市から人が集めるのはいいことだと思うよ。


毎年、2000人以上の新入生が入学するマンモス学園という評判もある。


しかもその人数を収容して余るほどの学生寮があるらしい。


どんだけ予算があるんだよって感じだね。


学園都市は最先端の都市だし、学園から排出される人材もSSランク冒険者とか、新しい魔術を開発した人とか、有名な企業の研究員とかになっているらしいから、お金は滅茶苦茶あるのがわかる。


ああ、それで話は戻るんだけど。


入学試験なんだけどさ、今ネットで調べた情報なんだけど。


どうやら、学力試験と魔力測定、魔法試験、体力測定、模擬戦闘試験があるらしい。


これは時間がかかりそうだし、体力もつかな。


特に学力試験、どんな問題が出題されるかによって話が変わってくる。


歴史とか出されたら終わりだ。記憶ゲーはあんまり好きじゃないからな。


でもそれ以外の試験と測定はなんとか行けそうかな。


実は僕、ちょっとだけ鍛えられているからね。


魔力量も並みの人よりも多いし、魔法も使える。


それに武器の扱いにも少しだけ慣れている。


まぁ、第一中央学園に入ってくるハイレベルな人たちには劣ると思うけどね。


そう考えてみると、明日の入学試験が楽しみになってきたね。


というか自分の情報収集不足が自分を苦しめていたっぽいな。


これで今日は安心して眠れるよ。


ああそうだ、それはそれとして、僕のことを全然知らないと思うから、僕の紹介と家族を紹介しておこうかな。


父さんから紹介しよう。


父さんの名前は、風槍院ふうそういん 英司えいじ


職業は冒険者をしていてAランク冒険者と呼ばれている。


Aランク冒険者はレッドドラゴンとタイマンできるぐらい強いと父さんが自分で言っていた。


それに父さんは冒険者としては稼げている方らしい。


そうじゃなきゃ今頃僕ら家族は大変なことになっているから、これからも頑張ってほしい。


外見は眼鏡をかけていて仕事ができそうな雰囲気を醸し出している黒髪黒目だ。


背も高いし、同業の女性冒険者に声をかけられることも多いらしいが母さんがけん制しているから大丈夫だろう。それに父さんは愛妻家だから無問題だ。


次は、母さん。


母さんの名前は、風槍院ふうそういん 麗華れいか


職業は研究員をやっていて、武器の開発から魔物の調査まで手広くやっているらしい。


その研究で忙しく、研究室にこもりっきりで帰ってこれない日が多いけど、返ってきた日には妹と父さんが労っているから心配はしていない。


ちなみに、僕は母さんに武器や兵器にあれこれ言って母さんを困らせている側だ。


だって仕方ないだろう、助言が欲しいって母さんが言ってくるんだから。


僕は武器マニアだからたぶんそのせいだろう。


外見は、金髪碧眼でお姉さんに見えなくもない。それくらい若々しいってこと。


それから、妹。


妹の名前は 風槍院ふうそういん 鏡華きょうか


妹って言っても年は1歳程度しか離れていないけどね。


鏡華は基本的に何でもできるタイプの人間だ。天才肌と言ってもいいかな。


確か、中等部に通っているだけど、生徒会長だし、成績軒並みトップだし本当に僕が兄なのか疑わしくなるよ。


それで、どんな妹か気になるよね。


う~ん、そうだなぁ。僕にはとっても厳しいよ。怠けているから。


それに家事はできるはずだけど、度々僕にやらせてくる。


なんでだろうね?


父さんや母さん、中等部の友達とは普通に接しているのに、やっぱり嫌われてるんだろうなぁ。


何もしていない怠惰な兄はだれでも好きじゃないだろうしね。


妹は異能が特殊らしく銀髪のオッドアイで、右目が碧眼で、左目が金色なんだ。


そして悲しいことに、妹の背が僕よりも大きいこと。


僕が165㎝で、妹が170㎝だ。


くそぅ、でもこれから背が伸びるはずだ。直ぐにでも追い越してやるからな、妹よ。


で、最後に僕かな。


僕の名前は 風槍院ふうそういん アニマ。


なんで僕だけ漢字じゃないんだよってのは分かってる。


それは爺ちゃんが名付けたからなんだよね。


爺ちゃんは生前、重い病厨二病を患っていてね。


爺ちゃんは僕が生まれたとき、この名前がいいって聞かなくってさ。


結果的にこうなちゃったらしいんだよね。


いやどういうわけだよって話だよね。ホント。


僕の紹介に入ろうか、僕は基本的に平穏でダラダラした日々を送れればいいと思っている人間だよ。


それもあって、今日という日までぬくぬくとやってきていたんだけどね。


だけどそうしていたら、大海へと旅立たなければならなくなってしまったよ。トホホ......


僕はさっきも言ったとおりだけど、学校には通わなかったんだけど、その代わりとして、勉強や体力作りはしていたんだよね。本当はしたくなかったけど、あの人に言われて仕方なくいや、あれはもう強制だったな。もう二度と思い出したくない記憶だ。


その記憶はいったん置いておいて、僕の異能について話そう。


僕に発現した異能それは、身体能力強化【E】だ。


分かってる。あっ......となってしまうのは分かっている。


異能のランクがEというのは結構なディスアドバンテージ。


ほぼ最底辺ランク異能者だよ。


Eランクの身体能力強化は少し体が軽いと感じられるくらいの強化なんだ。


これがSとかAとかのランクになってくると岩とか竜の鱗を打ち抜けるらしいんだけど、僕のランクはEだ。もう一度言う、僕のランクは......Eだ!!!


将来性がない?うるさいですね......それはレベルを上げて物理で殴ればいいんだよ!


大切なことはゲームが教えてくれる、人生の先生とはつまりゲームなんだよ。


ゲーム IS ゴッド。


OK?


そんなこんなで家族を紹介したわけだけど。


そうだ。姉さんの紹介をしそびれていた、うっかり、うっかり。


風槍院ふうそういん 鳳華ほうか


姉さんは度を越えた鬼畜だ。僕がスライムにも負けるような雑魚だからって、死ぬほど一緒に鍛錬させられたよ。あの時の記憶は封印ものだ。


現在は第一中央学園で生徒会をしていると聞いている。鳳華姉さんは超人だ。あの人に勝てる存在とかいるのかと思うレベルだ。


正直に言っておこう、僕は姉さんが嫌いだ。


というか、怖いという感情に近いのかな。


あの人は僕に何を求めているんだろうね?


っと......姉さんの話はこれくらいにしておこう。


それに明日は入学試験だしね。


それじゃ、おやすみ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る