私たちは最果てにて
砕けたアスファルトも一切なくなり、あんなに生い茂っていた木もなくなり、食料だってあと残り僅かになってしまった。随分と軽くなってしまった車で、走り続けている。日は照り続けているから、いつか走らなくなることはないだろう。
「なんか見えてきた」
「…………海だ。」
世界の果ては海だった。
もうこれ以上、まっすぐは進めない。後ろを振り返ると、どこまでも続く白い砂が見えている。あんなにあった木々も、もう見えやしない。
目の前には、青くて大きい海が見えている。
「ここまで来たね」
「長かったね」
ぽつりぽつりと会話をしていく。車のエンジンを切って、私たちは車から降りた。じゃり、と砂を踏む感触が靴越しに伝わる。じりじりと日が当たる感覚が、なんだか新鮮に感じる。車の中と外ではだいぶ違ったらしい。
グッと、凝り固まった背を伸ばす。ひたすらに青い空が目に入ってくる。伸ばした背を戻すと、先程見た空の色と酷似した海が広がっていた。
「さて、世界の果てまで来ちゃったけど」
「どうしようか、これから」
どうしようか、と言ったけれど、私はもう満足していた。最後の最後まで夜と一緒にいられたこと、それだけでよかったのだ。私の物語がここで終わってもいい、むしろここで終わってしまった方が最高だろう。
夜もグッと背を伸ばして言う。
「私たち、ここで終わりにしようよ」
「えっ」
「旭も気づいているでしょ」
じっと熱っぽい瞳で、こちらを見ている。気づいている、とは意味がわからないが、もし、合っているのであれば――。
カサカサになってしまった夜の唇に、同じくカサカサに乾いた自分の唇を重ねた。
きっと、短い時間だったはずだ。それでも永遠に感じた。
「ね、いいでしょう」
「うん」
足が、手が、胸が、熱くなっているのに、冷めていく。手の先なんて骨が見えている。そうなってようやくわかった。車の中で朽ちていたのは、きっと恋人同士だ。だからふたつの骨が車内に残されていたのだと。
でも。そんなのはもうどうでもいい。私たちは最果てで、繋がることができたのだから。
「夜、だいすきだよ」
「私も旭のこと、だいすきだよ」
私たちはだんだんと骨になっていく。繋いだ手は離さない。私たちは最後まで一緒だから。
世界の果てで、私とあなた二人きり。
いつか辿り着く場所にて 武田修一 @syu00123
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