都市壊滅――ドラゴンブレイク

真偽ゆらり

竜のささくれ

「ド、ドラゴンだ――」


 偶然空を見上げていた男が気付いて声を上げるが時すでに遅し。

 声が人々に届くよりも早く街の風景が一変する。


 街のシンボルでもあり行政機関でもある、強固かつ靭性に富んだ魔獣の骨を芯材とした筋コンクリート製のビルが二つに増えた。無残にも西と東に別れる形で。


 ひしゃげた中央部へ向けて傾いた事で互いに支え合い、辛うじて倒壊を免れてはいるがそれも時間の問題。


 遥か上空から片手を下にして、何故か瓦割りでもするかの様な姿勢で降り立った竜が咆哮を上げる。


 響き渡る咆哮で街中のガラスは砕け、爆心地では路面の舗装さえも吹き飛んだ。


 その振動と衝撃に倒壊寸前の塔が耐えられるはずもなく、街の象徴は瓦礫の山と変わり果てる。だが、竜による破壊は止まらない。


 竜が腕を――前脚を振るえば瓦礫の山を、尾が憩いの広場を薙ぎ払う。


 握った前脚――拳を振り下ろせばシンボルの塔に次いで高い塔が打ち込まれた釘の如く姿を消した。

 

 前脚を地面に擦り付ければ舗装されたはずの地面がいとも容易く捲れ上がり、抉れ、土と一緒に市長の隠し財産が空へと舞い上がる。


「俺達のコンクリートジャングルが……」

「クソ市長の野郎、あんなに貯め込んでやがったのか」

「おぉ~金貨の雨だ」

「バカ言ってないで盾を上に構えろ! 魔法が使える奴は防壁魔法だ!」


 街の防衛を任されている騎士達も、この街を拠点としている冒険者達も運良く避難できた街の住人達と同じく見ている事しかできない。できなかった。


 できるのはより遠くへ逃げることだけ。


 竜とは生ける災い。

 例え備えていたとしても被害を零になどできなかった。警戒観測網の外側――雲の上からの急襲ともなれば殊更ことさらに。むしろ、生存者が多数いた事は奇跡と言ってもいいと後の学者たちは口を揃える。原因からは目を逸らして。



「なぁ……あの竜、動きが変じゃないか?」

「言われてみれば確かに。ブレスを吐く様子が無いし、やけに左の前脚ばかりを使っているように見える」

「はぁ!? いやいやいや……そんなまさか」

「どうした、何か分かったのか」

「手――前脚の爪、その付け根部分をよく見て下さい」


「あれは爪の枝分かれ? いや、鱗が少しめくれている?」


「『ささくれ』です」

「「「は?」」」


「あの竜は超上空を飛んでいる時に発見した自分の指の『ささくれ』が気になって暴れているんです」

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