パンダが異世界で走る物語
箱丸
第1話 ニュータ
突然彼はやってきた――――…。
夢か、それとも幻か。僕の中では定まっていない白いこの空間―――。
春の陽気の中であったかい布団の中でぬくぬくしている感覚。そんな状態がここにはある。
「君はなぜ、ここに―――?」
彼は静かに言った。耳の中ですーっと入り込んでくる透き通った声。例えると、クラスに一人はいたであろうちょっと太った感じの好青年が発する美声。
だが聞きたいのはこっちであるのだ。
「……に、……く、……て」
途切れ途切れに聞こえるきれいな声。だんだんと薄まっていくその声はどこか遠くに――――――――。
バシン!!!!
突然の衝撃とともに頭がとても痛くなる。
「いってー!!!」
「ようやく起きた。おい、客だぞ」
不愛想な髭まみれのおじいちゃんが木の棒片手にそう言った。
「あっ!!」
僕は奥にじいちゃんを追ってた目を正面に戻す。
「やあ、ずっと起こしてたんだけどね。気づかなかったかな?」
聞き覚えのある声。
ガタイのいいがっちりした体。
常連客のニュータだ。
「いえいえ、そんなことないです」
そう返すとニュータは残念そうに
「なーんだ。キスでもすれば気づいたかな」
残念な顔をしてたくせに今度は意地悪そうな顔。なんだこいつ。
「キキキキ、キスぅ!?」
そう返すとニュータはフフッと笑う。なんなんだこいつは。
「いらん茶番はよせ、ニュータ。そいつを調子に乗せるな.」
そのお髭とともに不愛想だ。
「ごめんごめん」
あはは。とニュータは僕と向き直し、
「そのオイル、もらえるかい?」
僕の後ろにある車用のオイルを指さす。
「これ?5wー30でいい?」
「うん」
5wー30とは、ごく一般的に使われるイルだ。
「はい、これ。お代」
手はでかいのにちっちゃい指がとてもかわいい。
お金をきっちりもらうと、
「また来るよ」
ニュータはそう言い残し店を出た。
そうすると後ろにいた不愛想な髭爺さんが
「居眠りはやめろよ?お客に失礼だろ」
そういうと奥の部屋に消えた。
ニュータはうちの常連客だ。
毎週末きっかり昼前の11時に赤いフィアットのパンダ100HPに乗ってやってくる。
何の仕事をしてるかは全くわからないが週末になれば来る。
カランと店のドアが鳴る。お客のようだ。
パンダが異世界で走る物語 箱丸 @hakomal1972
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