第5話 特訓

 深夜2時。

 普通の高校生ならば寝ているこの時間に、真っ暗な部屋で一人、カタカタとパソコンのキーボードを叩く青年が居た。


 ご存知のユイである。


「ッッぶねぇ......。勝ったあ...」


 隣で寝ているカルテットを気にすることも無く独り言を呟く。


(...にしても今日あったこと......現実なのか...?

 ...まあカルテットこいつが横で寝てるのが何よりの証拠なんだが...)


 そんなことを思いながらモニターの右下に表示されている時間を確認するユイ。


「明日休みだし...もっと起きててもいいけど......。いいや、疲れたし寝よっと」


 そう言って電源を落とす。


「まってカルテット邪魔。どこで寝ればいいんだよ」


 隣で唯一の布団を一人、贅沢に使っているカルテットを見て言う。

 どうしようも無いと悟ったのか、いつもゲームする時に使っているゲーミングチェアを倒して寝ることにしたユイ。


「......。明日は平和でありますように。

 ......痛いセリフだな」


 そう言って眠りにつく―――――――――。




 ***




「...て......ユイ.........ユイ!!おきなさい!」

「んあ!?」


 何度も体を揺さぶりながらユイを呼ぶ。

 ようやく起きたユイに母親が言う。


「これ入ってたわよ。ポストに」


 そう言ってユイに一つの手紙を手渡す。

 右下に小さく、湊月みつきユイ様へ、と書かれていること以外はありふれたごく普通の手紙だった。


「...?なんだこれ」

「知らないわよ」


 そう言ってユイの部屋から出る母親。

 親がいなくなったのを確認したユイは、手紙を開け、中身を確認する。

 予想だにしない内容だったのか、急いで布団の中に潜っているカルテットを叩きおこす。


「んぅ......」


 目を擦りながら起き上がるカルテット。


「おい見ろこれ」

「なに......」


 カルテットに見せた手紙の差出人は、昨日見たあの人物からだった。

 内容は短い一文だけ。


 本日の午後六時。藤金ふじがねの廃病院にてお待ちしております。

 、湊月ユイ様のみでのご参加、お願いします。

【SRAM《スラム》】一同。


 というものだった。

 藤金市はユイ達の住むここの隣街の事。

 だが、二人が驚いたのは二つ。

 一人での参加、そして【SRAM《スラム》】側から接触してきたということ。


「行くべきじゃないでしょ!何されるかわかんないじゃん!!」

「いや、行かない方が何されるか分からないだろ」

「う......でも...」

「大丈夫。お前の権能、強いんだろ?」


 それを聞いたカルテットが不安そうな顔をしてユイを見る。


「でも...強いだけじゃ......」

「まあ確かに使いこなせてないだろーな。昨日のあれも」

「じゃあやっぱり...「でもお前がいる」


 え?と言わんばかりの顔でユイを見つめる。


「もしもの為だ。お前なら権能の使い方、分かるだろ?」

「...たしかに......でも...」

「はあ...お前が弱音ばっか吐いてどうすんだよ。こっちは巻き込まれた側だぞ」

「う...ごめんってば。分かったよ...。

 そのかわり、厳しく行くから。覚えててよ?」

「任せな!」


 そう言って部屋を出ようとするユイが立ち止まって言う。


「まってどこでしよう...?」

「考えてなかったの...?もー。仕方ないなあ。固有権能使って、私と自分に触れてみて」

「ん、昨日のやつだよな。

 権能行使エプティション、【黒い保存ブラックアーカイブ】」


 昨日と同じ権能、【黒い保存ブラックアーカイブ】を発動する。

 発動とともに目に刻まれていた紋章が再び浮き上がる。

 そのままカルテットとユイ自身の体に触れる。


 触れた瞬間、何も無い空間に飛ばされる。

 白いコンクリートのような材質の地面と、半径30メートル以上はあるであろう壁に囲まれた、塔の内部のような場所に。


「はっ...?なんだ......?ここ...」

「ここは私とユイの権能、【黒い保存ブラックアーカイブ】の内部」

「...え?そんな力なのか?これ」

「ああ、そういえば【黒い保存それ】の説明をしっかりしてなかったね。ごめんごめん。

 この権能は、ありとあらゆる物体をする能力なんだ。もちろん、人間などの生物もね」

「...保存......」

「うん。まあ昨日使ったし分かりやすいかな。昨日戦った相手のグングニルを保存して射出したでしょ?」

「...なるほど。つまりはしてそれを能力ってことだな?」

「そういう認識でおっけー!

 んで、この空間はユイの権能で保存した物を保管する場所ってこと。

 だけど権能は重複して使うことは出来ない。例外を除いてね」

「...なるほど......?」

「......まあ今ユイは今権能を使えないって考えたら分かりやすい?」

「なるほど!......えじゃあ意味ないじゃん...」


 淡々と説明を続けるカルテット。

 覚えるので精一杯のユイが気づく。そのセリフを聞いたカルテットが笑いながら話す。


「ふふ...ははは!!...たしかにそう思うよね...ふふふ...」

「なんだよ!!恥ずかしいな!!」

「ごめんごめん...ふふ。

 えーっと、気を取り直してっと。まあユイの【黒い保存ブラックアーカイブ】は私の力なわけじゃん?

 契約ってのはいわば権能を状態なんだよ。

 まあ要は元は私の力なわけだから、堕天使である私でもこの空間なら権能を使えるってわけ!」

「うんうん......」

「で、この空間で私の権能を使ってもう一度さっきと同じことをする」

「...あ!!カルテットの【黒い保存ブラックアーカイブ】内に行くってことか!」

「そうそう!!

 じゃあするね?」


 そう言ってカルテットが権能を使う。


権能行使エプティション、【黒い保存ブラックアーカイブ】」


 そして手で自らとユイに触れる。

 先程と同じようにまた、別の空間へと飛ばされる。

 飛ばされた先は先程とは比べ物にならないほど膨大な空間で、壁もほぼ見えない場所だった。

 が、色んな所に様々な物体が置かれているのが見える。


「え......?広......」

「まーね!!凄いでしょ」


 あからさまなドヤ顔で言うカルテット。


「これに関しては普通にすごい...」

「え、あう...」


 単純に褒められると思ってなかったのか、顔を赤くする。


「ま、まあいいから!とりあえず特訓するよ!!」


 照れを誤魔化すように言ったカルテットは、近くに落ちていた剣を拾う。

 大きさで言えばクレイモアだろうか。

 それを慣れた手つきで上に投げる。一回転、二回転と回る剣を見事手に取り、ユイに突きつける。


「さ、やるよ?特訓。でもこれだけじゃユイの権能はほとんど意味ないよね」

「...たしかに。近距離戦闘ならするものが無くなる...」

「まあ今のユイならそうだね。って事で......お、いいのあった」


 少しユイから離れて、様々な物が積み重なっている山を漁りながら言う。

 古い型のテレビ、ドラム缶、金属バット......多種多様な物がある中でカルテットが手に取ったのは―――――――――。


「じ...銃!?」


 ユイが声を大きくして言った。





 ***




「........え?」


 私の名前は月夜つきやアカネ。

 ごくごく普通の...いや普通ではないかも。

 天使、ネツァクの契約者なんだけど...。

 それが原因かは知らないけど...最近不思議な出来事に見舞われてる気がする。


 その中でいちばん怖い...っていうか驚いたのは幼なじみのユイが契約者だったってこと。だった。今の今まで。


 今の状況?

 何故か拉致らちられてます。


 病院の屋上...かな?

 椅子に座らされてるんだけど目の前には昨日の子、白珠しろたまシノ?だっけ。

 その子ともう一人女の子が座ってる。

 とても逃げ出せる状況じゃないんだけど...。


「ごめんなさいごめんなさい...なにも説明してなくて......」


 シノちゃんじゃない方の女の子が言う。


「説明しなくていい」


 その子を軽く叩いてシノちゃんが言う。

 ごめんなさいごめんなさい...と呟き続けている女の子を見て慌ててなだめているらしい。

 何だかんだでいい子なのかな?


「一つだけ言うけど、今日の五時、君の彼氏さんが助けに来るから、それまで大人しくしてて」


 彼氏...?彼氏.........?

 そんな人いたっけ...。.........あ、え?


「ち、ちがああああああう!!!!!

 彼氏じゃなあああああい!!!!」


「「...え!?」」

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