第4話 相対

「ねえちょっと手加減とか出来ないの!?!?」

「そーだそーだ!」

「ふははは!!!負ける方が悪いんだよ!!負ける方が!!!」


 先程、ネツァクが天界に帰った後、ユイの部屋でアカネとカルテット、ユイの3人でゲームをしていた。

 画面には《1P-WIN-》の文字。

 言わずもがな引きこもり陰キャのユイが勝っている。


「っー!!!だああああ!また負けた!!」

「強すぎない!?!?」


 唯一自慢出来るゲームで勝ち続け、優越感に浸っているユイに向かって二人が言う。


「ふふふ。ってかアカネ帰らなくていいのか?もう6時だけど」

「あ、ほんとだ。じゃあそろそろ帰ろっかな」

「あいよ、送るわ」

「ありがとーう」


 そう言ってゲーム機の電源を落とすユイと、帰りの支度をするアカネ。といっても学校指定のカバンを持つだけだが。

 そうしてアカネを送ろうと立ち上がるユイとカルテット。


「よし、忘れ物無いよね」

「まああってもすぐ届けれるし」

「たしかに」


 なんて言う雑談をしながら三人で部屋を出る。

 ユイはサンダル。カルテットはスニーカー。アカネはローファーと、それぞれ別の靴を履いて、玄関を開ける。


 開けた途端、外のカラッとした暑い空気が三人を出迎える。


「あっつ!!地上界ここあつすぎない!?」

「まだ6月なのに...」

「だよな......あ!!!」


 ユイが声を大きくして言う。

 彼の前を歩いていた二人は驚いて振り向く。


「「なに!?」」

「部屋の電気消してねえ」

「「.........消してきなよ」」


 それを聞いたユイは『ちょっと待ってて』と言い残すと家の中へと戻って行った。


「まったく、女子二人をこんな暑い中待たせるとか...」

「好きなくせに」

「うるさい!!!」


 なんて言う女子女子した会話を交わしている二人の足下...と言うよりはカルテットの踏んでいる地面から何かが飛び出してきた。


「危ない!!」


 アカネがカルテットの手を引く。

 手を引くのが少しでも遅れていたら、カルテットは見事に串刺しにされていただろう。


 飛び出てきたものの正体は、赤い炎で構成された槍だった。


「なっ...なにこれ...」

「......っ!権能!!!」

「えっ!?」


 カルテットはその槍に心当たりがあるようだった。


「とっ、とにかく逃げないと...」


 そう言って玄関の前から道路へ走り出す二人。

 左右を確認して、人がいる方へと進むカルテットについて行くアカネ。


「な、なんで人の多い方に...?」

「天使ってのは地上界の生き物を傷つけたら行けないんだよ。まあもちろん契約者は対象外だけど...」

「なるほど...」


 人混み、という程でも無いが部活終わりの高校生が丁度歩いている歩道を駆け抜ける。


 一人、二人とすれ違う途中で、カルテットがいきなり立ち止まる。


「わ...っと、どーしたの?カルテット」

「......前方...あいつ、契約者だ」

「前?」


 そう言って前を向いたアカネの視界に映ったのは、同じ高校の制服と、こんなにも暑いと言うのに灰色のパーカーを着て、フードを深く被った人物だった。


「誰?」

「......白珠しろたまシノ。

 お隣に居る堕天使、カルテットを捕まえに来た契約者だ」


 パーカーのフードを脱ぎ、白銀のショートヘアをたなびかせた少女が言う。


 アカネが手を前に突き出して言う。


「...それなら......戦闘ってことかな?

 権能行使エプティション、【失われた大地ロストサーフェス】!!」

「なっ...!?」


 手で何かを掴む動作をしたアカネが手を上に掲げる。それと共にシノが上へと引っ張られるかのように飛んで行く。


 それを手を離したアカネと横にいたカルテットが翼を広げて追いかける。


 上空に飛び立ったアカネとカルテットを見ながら翼を広げて体制を立て直すシノ。


「あんたが契約者か...!」




 ***




 ...どうしよう。

 電気を消し忘れた俺は、玄関を開けて部屋に戻り、しっかりとスイッチを押して部屋が暗くなるのを確認した。

 そこまでは良い。

 そこまでは。


 玄関を開けてもう一度暑い空間へと向かった俺の目の前には、待っているハズの二人、カルテットとアカネが消えていた。

 勝手な行動しやがって...。

 これで他の天使にでも襲われてたらどうするんだよ。


 なんてことを言いながら歩き始める。

 家から向かって左にある大通りの歩道を。私服だから良いものの、もし制服だったらこの学校帰りの生徒ばかりの所をひとり寂しく歩くところだった。

 まあ別にいいけど。知り合いっていう知り合いも居ないし。

 .........。


 ...悲しいからやめよう。この話は。

 なんて一人で考えていると、ふと声がした。


「ねえねえ、そこの君。髪の毛の長い、そこの君!そうそう!」


 声が聞こえた路地裏の方と、俺の後ろとを何度か見返して確認をする。

 ...俺らしい。

 こんな美少女の知り合いなんていないはずだけど...。


 ......渋々路地裏に入る。

 その瞬間、顔を近づけてくる少女。


「へ!?ちょまっ......」


 反射的に後ろに下がってしまった俺を見たその少女は頬を膨らませた後にこちらに飛んできて―――――はっや!?


「私はNo.1ナンバーワン。それとの権能は【黒い保存ブラックアーカイブ】だけじゃないよ。

 それだけ覚えといて?堕天使の契約者さん。」


 は?


 通り過ぎるタイミングで言われたその言葉を忘れることは無いだろう。


 後ろを振り返るとその少女は既に居ない。

 何だったんだ...?

 ...考えてても仕方ないか。とりあえず二人を探さないと。


 路地裏から大通りに出る。その瞬間、はるか上空から話し声...と言うよりは何か暴れている音と、翼が空を切る音が聞こえてきた。

 ...羽ばたくの方が正しいか?

 まあいいや...どうせ鳥だろ。とでも思っていた。

 いやむしろ、鳥であってほしかった。


 上を向くと、丁度目が合う。

 見慣れたアイツらと。


「おおおおおい!!!ユイ!!早く来て!!!ッッッあっっぶな!!!」


 目が悪い俺は遠くて何が起きているか分からなかったが、恐らくアカネと思われる人物が何かを避けながら俺に呼びかけている。だろう。


 はあ...。また...?痛いの嫌なんだけど...。


 今日で二回目の戦闘であることを確信した俺は、周りに誰もいないことを確認してから翼を広げて力強く――――――飛ぶ!!!





 ***





「ちょちょ!あぶな!!」


 前方、後方、左右、上下というありとあらゆる方向から飛んでくる槍をかわしながらアカネが言う。


「あっアカネ!!」


 右側から来る槍に気づかなかったアカネに声をかけるカルテット。

 が、既に遅く、槍がアカネの右腕に直撃する―――――――否!


 下から飛んできたが槍を掴んで間一髪、アカネに当たることは無かった。


「あッッッちいい!!ッこんの野郎!!」


 右手に燃え盛る槍を持っているユイが、シノに向かって大きく振りかぶって、投げる。


「当たるわけない」


 シノに当たる直前で消滅する槍。


「この槍は私の権能、【デタラメの槍グングニル】だから、消すのも出すのも、私の意思次第」


 自身の周りに槍を三本ほど出してクルクルと回りながら解説するシノ。


「へーいへい。おたくは誰の契約者なんだ?」


 右手をブラブラさせながらユイが聞く。

 その近くに二人も来たようだ。


「言うわけない。でも一つだけヒント...というか教えてあげる。

 私は地上界で主に任務をこなしてる、天使と契約者の団体の一つ、【SRAM】。今回は神様から直々にあんたら捕獲の任務が来たからここに来た。それだけ」

「ふーん。なるほど......ね!」


 そう言いながらユイが翼でシノの方へと素早く飛んで行き、後ろに回り込む。

 蹴りを入れるタイミングで、シノが権能を発動する。


権能行使エプティション!!【デタラメの槍グングニル】!」


 そう言ったシノの横から槍が出現、それと同時にスイに向かって放たれる。

 ―――――が、ユイも同時に権能を発動していた。


「ッッ!権能行使エプティション...!?【黒い保存ブラックアーカイブ】!」


 発動した権能で、槍を受け止める。

 ―――――と言うよりは吸収した。


「なっっ!権能の詳細が分からない...」

「だろ!!蹴れなかったのは恥ずかしいけど...もう一度......!」


 翼に力をいれ、もう一度飛んでいく。

 シノの直前に迫るタイミングで翼を1度解除。当たり前だがそのまま前に進みながら高度を下げるユイ。

 シノの真下に来たあたりでもう一度、権能を使う。


「【黒い保存ブラックアーカイブ】!

 発射ファイア!!!」


 そう言うとユイの目の前に黒い正方形が現れ、それからシノに向かって先程の槍が黒く変色したものが射出される。


「はッ!?」


 その槍はシノの意思で消えることがなく、彼女の右足へと直撃した。


「くっ!!......まだ!」


 そう言って周りに無数の槍を出現させるシノと、翼を再出現させ体制を立て直すユイ。


 その二人の間にいきなり人物が現れた。

 黄色い髪をした青年が。


「はいはい、そこらへんで終わっとこ。

 二人共まだ契約したばっかやろ?」

「ッッ!でも!!」

「でもじゃないわ。これ以上やったら多分負けるで」


 そう言われて返事のできなくなっているシノ。


「さて、ユイ...ちゃんやっけ?

 さっきの戦闘、遠くから見せてもらったけど、だいぶおもろい戦い方するなあ。

 ぜひとも【SRAMスラム】にほしいんやけど...っと、堕天使と契約してたんやっけ?」

「えっあ、は、はい...」

「なんや堅苦しいな?

 ま、ええわ。っていうかごめんごめん、急に邪魔して。ちょっと急用できてもーてな。コイツ連れて帰るけど、ええよな?」

「は、はい...」

「あんがとさん。じゃあ行くで、シノ。ちゃんと捕まっときや」


 そう言うと青年はこちらに手を振ってから、突然消えた。


 取り残された三人。


「え!?なに!?どゆこと!?」

「わ、わかんない...」


 アカネとユイが混乱しているのを見たカルテットが言う。


「今の関西弁の人、【SRAM】って集団に入ってるんだろうね」

「...まじか。強そうだったもん」

「っていうかユイいつの間にそんなに戦えるようになってんの!?ビビったんだけど!」

「いや感覚...っていうか勘...?」

「腹立つー!!!」


 話してる二人を見ながらカルテットが考え込む。


(...ユイの戦闘センス......ただの人間じゃまず考えつかない。翼を一度閉じるとか。...でも元から天使とかなら契約は出来ないし...。

 んー、どーゆー事だ...?)


「おーい、カルテット!!今からアカネ送って帰るから!早く来いよー!」


 既に地上に降りているユイからの声でハッとなるカルテット。


「わかったー!」


 そう言って下に降りる。

 赤く染った空を見ながら三人は帰路につく。

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