第3話 共犯者

「ネネネ……ネツァク!?」


 大きな声でカルテットが言う。


「そんなやばい奴なのか?」

「やばいもなにも、ネツァクもセフィロトの一人だよ!?」

「はあああ!?!?!?

 おかしいだろ!!早いって!!!こんなんだから読者がつかないんだよ!!」

「後半は意味わかんないけど…やばいでしょ!?」


 アカネ自身はなんのことだか分かっていない様子で、不思議な顔をしながらカルテットを眺める。


(この子……ネツァクとはずいぶん違うなー。

 翼とか、頭のわっかも違う……ってそっか、わっかは天使によって違うんだっけ)


 そんなことを思いながら眺めているアカネに、カルテットが言う。


「あ、あの……なにかついてますか………」

「ん?あ!ごめんごめん、ネツァクとはずいぶん見た目が違うんだなーって思って。ほら、頭のわっかとか」

「あー……それはー…その……」


 アカネに今の状況、カルテットのこと、さっき上空で起きたことをすべて説明する。






 ***







「えええええ!?堕天使!?!?」

「ちょちょ声大きいって!」


 大声を出すアカネに向けて人差し指を唇に当てながらユイが言う。

 ごめんごめん、と笑いながら言うアカネに笑いながら小さくため息をするユイ。

 その横にいるカルテットはアカネに耳打ちで聞く。


『ねねね、アカネさんってユイのこと好きなの?』


 それを聞いたアカネは段々と赤面していく顔を両手で隠して言う。右手の人差し指と中指の間をあけ、何のことか分かっていないユイを見る。

 数秒して、にやにやしているカルテットに目をやる。

 左手は顔に当てたまま、右手でカルテットを呼ぶ。


『なな、なんでそう思ったの…』

『んー?なんとなく?』


「何二人で話してんの。混ぜろよー」


 こそこそ話している二人の間に顔を入れたユイが言う。


「ちょ!え!?なんもないし!ていうか客人にお茶もなし!?」

「ええ…?いつもいらないっていうじゃ…………う、すいません。淹れてきます…」


 理不尽に怒られ、睨まれたユイが部屋を出る。


「はあ……危ないじゃん!」

「いやいやあ…」

「なに!!」


 笑いながら言うカルテットに頬を膨らませながら聞くアカネ。


「そのー、いつも来てるんだ?」

「…………へ……?……あ。

 いや、その、ちがくて、べつになにもしてないし課題届けたりとか…親が仲いいからだから!!それだけ!!!!ほんとに!!!!!!」

「まだ来てるんだ?って聞いただけだけどー?」


 またもや顔を紅潮させ、さらに布団にうずくまる。

 それを見ながら笑うカルテット。


 一方ユイは――――――――――――――――。





「あの……誰…………?」


 キッチンで夕飯を作っている母親―――――とリビングのソファに固くなって座っている、肩にかかるほどの長い緑髪の男に言う。


「んー?その子ー?かっこいいでしょー。さっき買い物帰りに見つけたんだけど、あんたのこと探してたから家連れてきたのよー」

「はあ!?……ま、まあとりあえず部屋……来る?」


 お盆の上にコップを一つ追加したユイが言う。

 固い動きのまま、母親に会釈した彼はユイの後ろについていく。


 階段を降りた2人。

 部屋に入る前にユイが言う。


「...なあ。お前さ、もしかしてなんだけど...。天使?」

「ッは!?」


 驚いた顔をして、緑の髪の青年が言う。


「な、なんでだ!?」

「いやだって――――――、ハネも輪っかも見えてんだけど」

「...じゃあお前も契約者ってことか?」

「まあそーだな。てか名前は?お前」

「あ、ネツァク。ごめん名乗り遅れて」

「...え!?!?!?!?」


 急に大きな声を出すユイに体をふるわすネツァク。

 そして同時に部屋の扉が開く。とてつもない勢いで。


「「どうしたの!?」」


 カルテットとアカネが声を揃えて言う。

 そして同じく声を揃えて言った。


「「あ...ネツァク」」


 カルテットは冷や汗を垂らしながら、アカネは驚いたように。それぞれ声は揃ったが表情はだいぶ違うようだった。


「あ!?おいお前!!お前脱走者だろ!!」

「......いやぁ...人違いじゃ...」

「いやその光輪じゃ無理あるだろ」


「「「たしかに」」」


 三人が声を揃えて言った。


「ま、まあ部屋入るか...?」

「あっお邪魔します」


 何だかんだでぼっちのユイの部屋に客人を三人招く、なんて言う世界記録を達成した。


 そんなことは置いておいて、ネツァクに先程アカネにした説明をする。


「...じゃあ俺、コイツ捕まえないといけないんだけど」

「いやあ...そのお...そこをなんとか......」

「無理に決まってんだろ。俺も堕天するわコノヤロウ!

 ......え?えっおいユイ、アレってまさか...」

「ん?あー、シングル?」


 ネツァクが見ていた先にあるのはBUMPのシングルアルバムだった。


「お前...!!BUMP知ってんのか!?」

「え!地上界来て最初にハマったもんだぜ!!!」


 目を輝かせて話し合う二人に、完全に蚊帳かやの外にされたアカネとカルテット。


「...わかる!そのアルバムは最初の曲と次のが繋がってるんだよな!」

「そうそう!!それにそのアルバムの隠しトラックもいいよな!」

「!!わかる!!!」

「あの......ネツァクさん、ユイさん...」

「「ん?どうした?アカネ」」

「あの、カルテットちゃんが...」


 そうして二人が見たカルテットは土下座をしている。


「「え!?!?」」

「あの、ほんとに。見逃して欲しいです」


 土下座をしながら言う。

 深く土下座しているカルテットを見たネツァクが、ため息をしてから言う。


「......そんな簡単な事か?俺だってこんなんだがセフィロトの一人で、お前みたいなやつが地上界に出てくるのを防ぐためにそこのアカネと契約させてもらってる。

 それをお前、土下座で見逃してください?

 舐めてんのか?」


 先程とはまったく違う空気が流れる。

 重い、ずっしりとした空気だ。


「すいません。」

「すいませんって言われてもな...」

「あ、なあ、ネツァク」

「......あ?」

「そいつが堕天した理由って、勘違いらしいんだ」

「は?お前.........。そんなわけないだろ。

 ......わかった。

 ユイに免じて許してやるよ」


 ユイがニヤッと笑いながらアルバムを指さす。その動作を見たネツァクが言った。


「え?ほんとにいいの?」


 顔を上げたカルテットが言う。


「ああ。その代わり、俺がお前を見逃したことがバレたらそれこそ終わりだ。

 ...そこで、お前の誤解を解く為に手伝ってやるよ。今回は」

「な、なんでそんないきなり...」


 アカネがネツァクに聞く。


『正直なところ、コイツは実力だけで言えば神にも届きうる。そんなこいつを敵に回せば俺だけじゃなくお前にも危害が行くだろ。だからだよ』

『...ネツァクイケメン』

『うるせ』


「...じゃ、じゃあとりあえず仲間になってくれるってことでいいのか?ネツァク」

「まあそうだな。とりあえず俺はセフィロトとして天界に戻る。だから戻ってくるまで大人しくしてろよ」

「おっけい!ありがとね!」

「おう」


 そう言ったネツァクの背後に出てきた白色の扉。

 先程天空で見たあの扉を小さくしたような、そんな扉だった。

 それをネツァクがくぐりきった途端、光り輝いで消えたのだった。


「......えーっと...じゃあ......よろしく...?」

「あ...そーいうこと...か?」


 そうして正式に(?)仲間になったアカネとユイは少しぎこちない感じで何故か挨拶を交わすのだった。

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