第110話
リザードマンは種族として強い。
話して理解したが、まず知性が高い。高度な文明を作っていないにも関わらず、人間の俺らと普通に会話が成立する。
人間でも会話が通じねえやつがたくさんいるんだから、これは凄いことだ。
次に、肉体的に異常なほど強靭だ。
人間と同じ体格で肉弾戦をすれば、まず間違いなくリザードマンが勝つ。それこそ世界樹の苗みたいなインチキがなければ、まともに殴り合いが成立しない。
そしてデカい。カルカを見ればわかる。おそらくだが、成長に限界点がないのだろう。成体になってからも巨大化し続ける。
『我らは生まれた階層より出られない』
そんなリザードマンが上の階層で覇権をとっていない理由を、カルカは語り始めた。
『我らリザードマンがどこにいるか、全てヴリトラに把握されている。我らのいる場所にヴリトラはついてくる』
『信仰っつーのか、それは』
『人間の言う信仰の意味とは違うかもしれんが、畏れもまた信仰だ』
『なるほど。いや、理解できるぜ。俺ら日本人っつー部族も似たような感性を持ってる』
カルカの話を聞きながら空を見上げた。星が遠い。
今さらだが、ダンジョンの中にも宇宙はあるんだな。ここもまた、1つの独立した世界だったのだろう。
『ヴリトラは神に成り損ねた、荒ぶる竜神だ。あの半神とこの世界を繋ぐのは、同じ世界を出自とする我らだけ。執拗に付き纏う破壊の権化だ。逃げることもできず、我らはヴリトラを少ない数の階層に繋ぎ止める役割を果たすに過ぎない』
『もしかして、難しい話が始まったか?』
俺の頭がスパンと叩かれる。ユエだ。
「王、真面目に聞け。重大な情報だ」
「うす」
素直に姿勢を正した。
『巨竜ヴリトラは階段を通れないだろう?』
カルカの言葉に俺たちは頷いた。
階段が安全地帯になりえるのは、大型のモンスターが侵入しづらいからだ。もちろん、ブレス等の飛び道具をぶち込まれたらその限りではないが。
ダンジョンの階段は、どんな手段でも壊せない。少なくとも、人類が用意できるあらゆるアプローチは弾いてきた。
『だが、我らリザードマンがいる場所においては、神に等しい権能を持つ。我らが他の階層に移動すると、ヴリトラは階段を打ち砕き移動する』
『マジかよ』
それってカルカを地上に連れて行けば、ヴリトラとかいう山を穿つサイズの竜が上がって来るっつーことだろ。
悪いな、一生をこの階層で過ごしてくれ。
『ヴリトラを恐れているにも関わらず、ヴリトラのそばで小さな水源を頼りに細々と暮らす。いい加減飽き飽きしてきてな』
『上を目指すとか言うなよ?』
『下を目指すことにした』
全員が胸を撫でおろした。
『より深い場所にいる強大な竜種にヴリトラをぶつける。いかなヴリトラといえど、いつかどれかが倒してくれるだろう』
カルカの声には、長年かけて積もりに積もった疲労が滲んでいた。
こいつらみたいに強力な戦士たちが揃っていても倒せないヴリトラ。それに挑む英国組、間違いなく死んだだろ。
リザードマンの集落を拠点として使うのは厳しいかもしれないな。
こいつら自身も深い層へと移動していくつもりのようだし、何よりヴリトラが現れるなら、安心とは程遠い。
『まぁ、なんて言えばいいのかわからねえが、健闘を祈る』
俺の言葉にカルカは決意の籠った目で頷いた。
翌朝。
テントを片付けた俺たちは、さっそく狩りの支度をしていた。
一宿一飯の恩ってわけじゃねえが、振る舞ってもらったのに何も返さねえのは筋が通らねえからな。
「ナガさん、この辺りはどんな感じか覚えてますー?」
斥候のヒルネと一緒に、黒塗りだらけのマップを確認する。
「わかんねえや。ただ、湿地帯はリザードマンの縄張りってことを考えると、湖から出てる川沿いに進むのが良さそうだな」
「大物を狙うんですねー!」
「そうだな。それに地下水の流れる地盤の緩い場所は、トウカの移動が制限されるかもしれないからな」
もちろん川の周囲にも地下水は流れているが、この近辺の川は底に砂や砂利が多く溜まっている。比較的に岩石が多い地質だ。足場は悪いが、ぬかるみにはまるよりは動きやすいだろう。
「川の中にもモンスターがいそーな気もします」
「どうだろうな。泥っぽい場所よりはマシだぞ。深層では竜種や熊もそうだが、有核種が怖いんだよ」
「有核種ってスライムとかですか?」
「だな。地面まるごと有核種でした、とかあるぞ」
「ひぇえ」
ヒルネが顔を青くした。
触手を這わせて色んなものを操る有核種は、環境に溶け込むのが上手い。これを見抜けないと初見殺しのトラップを食らうことになる。
基本的には、あまりにも広く同一の質感が広がっていたら、雑に切りつけて触手を切断していくのが対処法になるな。
「どの階層でも斥候の仕事は重い。気合入れていくぞ」
「はーい!」
ヒルネと打ち合わせを終え、今度は山里と
「シャベルマンを自由にさせ過ぎるなよ? マジで気づいたら物理的に消えるとかあり得る」
「死ぬ未来が見えないけど、一応気をつけとくわ」
確かにシャベルマンは死にそうにねえけどさ。
最後にトウカの肩に乗って足をプラプラさせているユエを見てから、俺は宣言した。
「ひと狩りいくか!」
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