第99話

 俺とアーサーはそれぞれ違う時間に釈放された。身元引受に来てくれたのは山里だった。


「あー、狭かった」

「何してんだよ、本当に」


 山里はポケットに手を突っ込んで、呆れた顔をして待っていた。

 俺は山里の肩をぽんと叩き、並んで歩き出す。


「で、ユエは問題なかったか?」

「大人しいもんだ。お前よりよっぽど常識あったぞ」


 少し安心する気持ちと、納得できない気持ちがないまぜになる。


「シャベルマンとは大丈夫だったか? ユエはなんとなく苦手意識を持っているようだが」

「かなり嫌がってたから、接触させてないぞ」


 やっぱこの勇者は気遣いが出来る勇者だな。俺には出来ないことをしっかりやってくれる。

 一度帰宅して風呂に入り着替えてから、ユエを預けているスイの家に向かう。

 がっつり勾留食らうと臭くなるし、携帯端末の充電も切れるしで良いことねえな。


 スイの家に入ると、リビングでユエと隼人が魔法談議に花を咲かせていた。


「だからな、外部的な要素に出力を依存するのであれば、破壊されないようにした方がいい」

「破壊されないものか。例えばタトゥーで体に入れるとかがいいのかな?」

「肉体は破壊される最たるものだろう……と言っていたら、自分の肉体を破壊しまくってる奴が帰って来たな」


 俺はひらりと手を振った。


「お前ら迷惑かけたな」

「少し長めだったかな?」


 隼人の言葉に頷く。

 下まで俺を迎えに来てくれていたスイが、俺の横から顔を出した。


「ナガ、そういえばアーサーの案内についてなんだけど、協会の方はやっぱり私たちにやって欲しいみたいだよ」

「まーだそんなこと言ってんのか?」

「というよりは、ナガ以外の人にやらさせてエルフ関連のトラブルが起きるのを恐れてるみたい。元理事のこともあるしね」


 どうやら理事たちをエルフの里送りにしたことで、協会には俺の怒りに触れることを恐れる者がそれなりの数いるらしい。

 あと元理事たちがエルフの里で、穴を掘ったり埋めたりしているの、傍から見たらとんでもない光景だからな。事情を知らない探索者が見たら驚くだろう。


 放っておいて勝手に行かれても面倒だが、マジであいつと一緒に行動したくねえな。どうしたもんか。なんかこう、良い感じにエルフの里に封印できねえかな。


「しかし、お前と喧嘩出来るなんて人間にしては大したものだな」

「確かにな? 妙に強かったぞあいつ」

「世界樹の苗か魔法的なものか……あるいは外部的な補助か。何にせよ種か仕掛けはありそうだ」


 ユエは腕を組んでうむうむと頷いた。

 つーか、いつの間にか日本語喋ってやがるな? 俺が勾留されている間に勉強したのか。


「その強さの秘密を解き明かしてみる、って感じで一緒にダンジョンに潜るのはどう?」


 スイが提案した。


「まぁ、確かに再現性のあるものなら、俺らも欲しいな。世界樹の苗以外なら」


 山里もそんなことを言う。俺の指食わせるぞ。


「事故死でもしてくれれば、向こうの聖剣の解析もできるであろうしな」

「うーん、事故死させるか!」

「駄目だよナガ」


 まぁこちらから事故死を狙わなくても、ダンジョン深層は何が起きるかわからないからな。

 とりあえず潜ることに前向きな気分になってきたな。

 山里を聖剣二刀流にするのも面白いかもしれない。


「じゃあとりあえず潜るか」

「今回はパスかな。僕らは僕らでちょっと遠征があるから」


 隼人がつれないことを言う。


「どこ行くんだ?」

「九州の方でダンジョンが不穏な様子みたいだからね。もしかすると、王と呼ばれるモンスターがいるかもしれない」

「なるほどな。なんか分かったことがあったら共有してくれ」

「もちろん、お互いにね」


 九州か。国内でも色んな入り口があるからな。俺らもそのうち遠征していいかもしれない。

 今回も俺らと山里たちの合同か。なんか実質1つのパーティーみたくなってきたな。

 俺は支部長ちゃんに連絡をとり、再度仕事の条件の打ち合わせをすることにした。




 仕事の条件は、比較的俺らに有利な条件で結ばれた。


 まず、アーサーのパーティーの安全については考慮しなくて良い。エルフの里まで先導だけすればよく、現地での安全や物資に関しては、各々の自己責任ということになる。

 エルフの里の利用方法については、俺らの意見を最優先してもらうことになった。


 探索の準備を整え、改めて俺らは吉祥寺入り口に集まった。

 久しぶりに会うトウカとヒルネは、また装備の更新をしている。


 トウカのパワードスーツはさらに重厚感を増しており、右腕にパイルバンカー、左腕に巨大なチェーンソーがつけられていた。どこを目指しているんだ、うちのヒーラーは。

 ヒルネは背中にウインチとバッテリーがついた、ランドセルのような機械を背負っている。


「ヒルネ、それなんだ?」

「グラップリングフックと巻き取り機ですね~。これで立体機動できるようになりますー!」

「お前もどこを目指してるんだ……」

「カッコいいですよねー!」


 まぁカッコいいけどさ。

 先に集合している俺らに遅れて、アーサーが悠々と入って来た。すぐ後ろに赤毛の女性と、めちゃくちゃ体のデカいやつを連れている。


「って、シャベルマンに追われてたやつじゃねーか!」


 俺の言葉と同時に、赤毛の女性も驚いた顔でシャベルマンを指さした。


「Weird Monster!?」


 変なモンスター?

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