第87話
あの鳥×虫×植物のモンスターが元人間だと。
『世界樹の影響でああなった』
「げ」
思わず自分の手を眺めてしまう。
俺の体の中には世界樹の苗が大量に入っている。ああはなりたくねえぞ。
『エルフは元々は、ただの長命な人種だった。少なくとも出会ったときはな。我らが骨に成り果てたように、彼らも変化し続けている』
『長い年月で、ってやつか。まぁ俺ら人間も昔はサルだったしな』
ノーライフキングが噴き出した。
『お前らの祖先はサルなのか! ははっはははは!』
バカにしたような笑い声だ。思わず頭に拳骨を振り下ろした。
『ぎゅぇっ、なにをする!』
『馬鹿にしてるが、そっちの世界では何が人間に進化したんだ?』
『マーモットの仲間だ!』
デカい声で叫ぶ、デブのくそでかネズミだ。
あんな頭悪そうな動物からも、人間みたいに進化できるもんなんだな。
『あんま誇れるもんじゃねえぞ、それ』
『まあいい。段々とダンジョンに適応し魔法の才を伸ばし、あるときを境に世界樹に縋るようになった。完全に呑まれた様子ではないから、中間宿主にされたってところであろう。いつの間にかあんな植物生命になっていたが、何があったかはわからん。当時の奴らも語ろうとはせんかった』
『話したくねえって感じだったのか?』
『いや、気になっていないような。まるで最初からそうだったかのような振る舞いだ』
脳みそまで寄生されてるじゃねえか。ひでえな。
『聖剣を使えた純粋な存在をエルフは勇者だなんだと言ってるが、実のところ、時代に取り残された長生きのジジイに特攻させただけ』
『ほんとあいつらの生態ロクでもねえな』
『強者にすりよるのが上手いから生き残ってる』
ゴマすりクソモンスターかよ。火山にでも封印されとけ。
『すり寄る相手を間違えて、いいザマだ』
それは植物体になってしまったことを言っているのか、俺ら人類に保護されたことを言っているのか。
世界樹に関しては、本当に早いところ確認した方が良さそうだ。どれくらい奥に本体がいるのか知らねえが、現物をちゃんと目で拝んでおかねえとな。
ダンジョンから帰還。今回は配信もつけていなかったため、一般人や探索者は集まっていない。だが、メディア関係者がカメラを構えて大量に待ち構えていた。
「よく帰還されました! 無茶な任務を……ヴッ、よく達成されました。亡くなられた方には哀悼の意を示します……」
俺の両手を掴み、芝居がかった様子で言う。
――途中で吐きそうになってなかったか? そんなに臭ぇか?
俺もできるだけ悲痛な表情を作った。
「牡羊の会のメンバーを救おうと最善は尽くしたが、広すぎる戦場と敵味方の数が多く、どうにもならなかった。無念だ」
カメラが俺の顔に向けられた。
この茶番は、隼人の提案で用意されたものだ。
せっかくだし悲劇の戦死を演出しようぜということになり、支部長ちゃんにも協力してもらっている。
メディアは支部長ちゃん情報を部分的にリークし、集めたものだ。
「現地でモンスターを手なずけ、深層に日本の探索者の拠点を作ることには成功し、聖剣も確保できた」
事前に用意したセリフを言う。
記者たちの間から「おお……」「聖剣……」「これで世界にリードできる……」「流石狼の王を倒した探索者チームだ」などとどよめきがあがった。
俺はざわつきが収まるまで待ってから、次の言葉を続ける。
「だが、無茶な任務を割り振られた牡羊の会に、あまりにも多くの犠牲が出てしまった。未来ある若者たちが、遺族が訪ねることもできない地下奥深くで、その命を散らしてしまった。可能な限り遺体は回収したが、モンスターの苛烈な攻撃で、遺体も残らなかった者だっている」
階段の下で隼人にタイミングを指示され、メガネと牡羊の会の生き残りが上がってきた。
一人残らず、あまりにもボロボロの姿。先頭を歩くメガネは手を失っている。生気も覇気もなく、衣服がどろどろの彼らに、記者たちは息を飲んだ。
「すぐに病院に搬送します」
支部長ちゃんが指示し、職員たちが牡羊の会を外に案内していく。なお、メガネは逃げないように別室に確保だ。
続いてドローンに牽引された
「うっ」
誰かが吐き気を堪える声がした。
地上で平和な仕事をしていれば、目にかかれないモンだろう。いや、この数となれば、ダンジョンに潜っている俺だってそうそう見ない光景だ。心が麻痺するような経験がなければショッキングだろうな。
「これ以上のことは、機密にあたるため俺の口からは言えない。だが、たまたま現場近くに別の探索者がいたらしい。彼らに訊けば、何かわかるかもな」
そう言い残すと、俺らも支部長ちゃんに案内されて医務室に向かった。
俺を筆頭に、スイと山里、それに
俺以外は部分麻酔を受け、ちゃんと手術室でやってもらっているのに、俺だけ雑に診察室で無麻酔だ。
「先生、なんか俺だけ扱いおかしくね?」
「いやぁ、何度か配信を拝見したのですが、どれだけ不衛生な場所で、どれだけ大きな傷を受けても平気そうでしたので」
それでも職業倫理バグりすぎだろ。
「治療をできる魔法使いがいないパーティーだと、一刻を争う怪我人が何人も同時やってくるなんてザラでね。ここじゃ日常茶飯事ですよ」
地味な顔の中年医師のメガネがキラリと光った。なんか、モンスターより怖いんだが。
「まぁ、現に平気そうじゃないですか」
「痛みには慣れてるからな」
とは言ったものの。世界樹の苗が邪魔するからなのか、切開したところを金具でがっつり開いて固定している。普通にダメージ負うより痛い。
ちょっとした強がりだ。
あらかたの破片を取り除き、復活。体に違和感はねえ。
スイに預けていたノーライフキングを回収し、抱き上げる。
「よっし、そんじゃ
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